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12月 25, 2022

精神科薬の副作用ー薬剤師編。

30代男性。うつ病の診断で、他院から転院。色々薬を使ってみたが良くならないという。

紹介状を用意してもらった。

私は前医からの紹介状は必ず用意してもらうが、実は前医の診断は鵜呑みにしない。

もしかしたら誤診かもしれない、という目で見ている。

うつ病と書いてあってボーダーラインパーソナリティだったり、

統合失調症だといわれて実は発達障害だったなんてこともしばしば。

治療は結構変わってくる。自称「うつ病」はもっともあやふやな診断名だ。

じゃあ紹介状なんていらないじゃんという人もいるかもしれない。

しかし、前医がどうして誤診したかその過程までわかると、かなり深いところまで理解ができるようになるから前医からの情報は有用だ。

 

と、ものすごい話がそれたが、本題に戻る。

うつ病にはSSRIを使うべし、みたいな流行があった。

でも当時の薬では力不足でなかなかうまくいかないことも多く、SSRIの増強療法が色々考えられた。その中で炭酸リチウムを追加するとSSRIの効果が増強され、症状が良くなることもあるという知見が大学病院では常識となっていた。しかし添付文書上はSSRIと炭酸リチウムは併用注意の薬剤である。SSRIの作用が強く出てしまうことがあるためである。その性質を逆手にとってSSRIの効能を最大限に強化したのである。

私も大学の研究会で得た知識をもとにSSRIに炭酸リチウムを併用して増強療法を行なった。

するとその男性の親戚であるという薬剤師が急に出てきて、「SSRIと炭酸リチウムは併用してはいけないのに、そんなことも知らないで処方してヤブ医者だ」とがなりたてた。

その男性には最新の増強療法だと説明していたが、親戚のいうことの方を信用していたので話は通じなかった。

横やりが入って患者さんも親戚のいうことを信じていたので、私も何とかしてあげたいというモチベーションがうせてしまい、

「その薬剤師と相談してやぶ医者じゃないところにかかったら?」と大人げなく突き放した。

長年良くならなかったというのは、そもそも不信感があって治療にうまく乗らなかったのかもしれない。

今振り返ると背景に発達の問題があったように思う。

 

医師であれば皆さん経験する横やり。

多くは親戚の看護師や薬剤師でほとんどその分野の知識がないような人がいきなり割り込んでくる。

 

医療従事者の敵は医療従事者だったりして。

 

まあ、実際に第3者だからこそ見えてくるということもありうるわけで、聴く耳は持ち続けたいと思う。

でも、マウンティング目的で適当なことをいうやつは許さん、笑。

 

12月 25, 2022

漢方薬の使い方-内科医

慶応病院で研修医としてすごしていたが、精神薬理を専門とする有名な先生が私の最初の指導医として熱心にご指導してくださった。

オールマイティな先生で、薬理が専門と言いながら、精神分析をはじめとした精神療法、家族療法などかなり熱心に勉強され、とてもバランスのとれた臨床をされていた。

しかも、当時はあまり一般的ではなかった漢方薬も勉強されていた。研修医には漢方の難しい概念は飛ばして、こういう時にはこれを試してみなとシンプルに実践的な知識を教えてくださった。

 

その後、今から20年近く前のこと。

同じ病院の先輩が漢方にはまっていて、「今度勉強会があるから参加してみませんか?」と誘ってくださった。

所謂気血水という基本中の基本の講座だった。

精神科の治療になんとなく限界を感じていたので新しい世界に関心を持った。

大野修嗣先生の講座を受講しまくった。

もっと知りたいと思って、大野先生を追いかけて小川町の診療所までいって実際の診療場面も拝見した。

 

それからはどんどんはまり込み、とにかくありとあらゆる漢方を処方しチャレンジしてみた。

もっと本格的に勉強したいと思い、東邦大学の三浦於菟(オト)教授、田中耕一郎准教授のところで私が身動きの取れる日曜日にハイレベルな講義が受けられるということを知り、毎回高速道路を飛ばして勉強しにいった。

毎回有名な先生がゲストとして講義をしてくださり、生薬の味見もできたり、

東洋医学の考え方、生薬一つ一つの詳しいお話を楽しく勉強し、どっぷりと漢方に浸かった。

しかし、漢方の専門医になるためには、常勤医として漢方専門医研修認定施設に一定期間勤務しないと専門医資格が得られない。

そんな時間のなかった私は専門医を取得することにはこだわらずに精神科での臨床を優先することにした。

 

それまでの漢方のイメージって、「長ーくのまないと効いてこない」というのが世間でのイメージでしたが、

意外と頓服に使えるような切れ味の鋭い漢方なんかもあったりして、服薬のタイミングとかもいろいろ考えて投与すると結構いいことがあります。

 

例えば、八味地黄丸。

大体高齢になってくると、心臓のポンプ機能や筋肉のポンプ機能が弱って血のめぐりが悪ったり、腎臓が少し弱って体に水分がたまってしまうことがあります。

夜睡眠のため横になると、下半身にたまっていた水が心臓に戻ってきて、めぐりだすと腎臓で尿が生成されます。

すると夜間尿で何回も起きてしまう方がいます。

 

そういう時に、八味地黄丸を少し眠前のみ服用してあげると夜間の尿の回数が減ることがあります。

そのような処方をしていたところ、ある患者が内科で私の処方を見せたようです。

するとその内科医は「漢方は1日3回長期間のまないと効かないもの。こんなでたらめな処方をしているのはやぶ医者だ」と患者さんにいったそうです。

無知な上にライバル心むき出しでびっくりしました。

当時は漢方に詳しくない先生はあまり見たことがない処方だったかもしれませんが、今ではよく見る当たり前の処方となっています。

あの内科医は覚えているのでしょうか。

 

12月 25, 2022

精神科薬の副作用ー整形外科編。

1、中年女性。体の痛みなど不定愁訴で整形外科を主体とする病院を受診。

整形外科は、体育会系で大雑把、そして言葉遣いも荒々しい先生が他の科よりほんのちょっと?多い。

私と仲がいい整形外科医は真逆の先生ばかりであるが。

その女性は、整形外科医に「あんたは頭がおかしいから精神科に行って診てもらいな」と言われたのでこちらにきたと述べた。

そういう言葉を使っても許容されるキャラクターというのは信頼が厚い昭和のドクターといえるのかどうかよくわからない。

色々お話を伺ていると、どうも夫のDVが症状と関連しているようだった。

DV夫婦っていうのは結構難しい。

周りが「そんなの早く別れなよ」といってもあれこれ別れられない理由を述べて、なかなか離れようとしないことがある。

共依存という問題が背景にあったり、被害者面して実は妻の方がモラハラがひどく、一方的にひどい言葉を夫に浴びせ続け、口下手で思うように言い返せない夫がキレてしまって手を上げているというケースもある。妻には自分の不満の捌け口となるDV夫が必要だったりする。あるいは、こんなダメな男を支えられるのは自分しかいない!と本質から目を背ける人もいる。

だから一方的な話では本当のところはわからないことも多い。

とりあえず、本人の問題はさておき、夫のDVをストレスと感じて体にあちこち症状が出ているようだったので、対症療法で薬を処方した。初診時に出した薬は劇的な効果でたちまちに症状が消失した。

整形外科で患者さんがそのことを報告したら、その先生に「精神科の薬なんか飲んでいるから気狂いなんだよ」と言われ、自分でももう良くなったと思って薬をやめたそうだ。そうしたらまた症状が出てきたのでなんとかしてほしいという訴えで再診にきた。

伝言デームで誰がどのように言ったというのは、間に入っている人の意思が介在しているので、話が変わってしまうこともある。

整形外科医が本当にそのようなことを言ったのかもわからない。時々直接問い合わせて聞いて事実関係を確認することもあるが、

今回のケースも筋は通っていないので、患者の問題も大きいのではないだろうかと感じた。

結局薬を飲むか飲まないか最終判断したのは患者であり、その理由づけに整形外科医を利用したに過ぎない。

服薬を無理強いする医療には興味がない。また、薬なしでパッと症状をなくす魔法もかけられない。(意外とそう言う要望をおっしゃる患者さんは実在する)

「飲みたくないなら薬を飲まなくていいですよ」と当院は終診とした。

すると夫からチンピラ口調でクレームの電話が入った。症状があるんだからなんとかしろという内容だけでなく、慰謝料を払え的な内容も含んでいた。

おう、そうか、こうやって夫を利用するためにDVだのなんだの言いながら夫を引き連れて来院するんだな、と状況が見えた。

「これからそっちに向かうぞ!」などと何かわめいていたが、「警察呼んで待っているからちゃんと来いよ」と伝えると結局来なかった。

それにしても整形外科医のいう「飲むと気違いになる精神薬」ってなんのことだったんだろうか?

 

2、サインバルタの副作用

うつ病でサインバルタを処方していたおばあちゃん。

サインバルタは当時うつ病に適応があったが、腰痛にも適応が取れ、製薬メーカーが整形外科医を集めて講演会を頻回に開催してサインバルタの処方を大々的に宣伝していた。

お薬手帳も見ない、薬の副作用にも無頓着な、大胆な先生も結構いるのに大丈夫なのかな?と心配していた。

おばあちゃんが腰痛で◯〇クリニックというどこの団体にも属していない営利団体的な整形外科にかかったそうな。

しばらくして、おばあちゃんが胃の調子が悪く食事が喉を通らなくなって弱ってしまったという。

何が起きているのか色々調べているうちに〇〇クリニックからサインバルタが重複処方されていることが判明した。

お薬手帳を見ない整形外科医、重複処方が出ていても無視するその門前薬局。

なんだかな〜。

 

12月 25, 2022

精神科薬の副作用ー心療内科医編。

複雑な生育歴の初老の女性。もう20年近く品川の心療内科に通っていた。いろいろなストレスがかかっているときに、テレビに出演していた心療内科の女医にかかりたいと思い、上尾からはるばる受診しに通った。不安を感じると胸がざわざわして、心電図などには異常を認めなかった。心療内科医はシンドロームXだと診断し、デパスを処方した。不安を感じたらいくらでも飲んでいいと指示した。患者さんは完全にデパス依存になった。少しでも薬が切れると、そわそわざわざわ落ち着かなくなったりイライラしたり変な汗がでる。そのように訴えると、栄養が足りないと説明された。毎回採血し、高額なサプリを服用するよう指示された。1回数万円単位のサプリは経済的に厳しかったが、頑張って購入していた。いよいよお金が底をつき、買えませんと伝えると、女医はほとんど無視するようになった。つらくなって、当院に転院を希望した。紹介状を準備するよう伝えたところ持参したきたが、20年近くかよった通院経過どころか診断名も記載されていない過去最凶の紹介状だった。しっかりと紹介状作成料は請求されていた。彼女の20年の通院は何の役にも立っていなかった。それどころかデパス依存で離脱症状に苦しまされていた。

デパスは今やアメリカでは大麻よりも依存性が高い質の悪い薬だと評価されている。私も一般の外来患者さんに新たに処方することはない。

今回はデパスをやめていくつもりがあるなら治療に付き合うという約束で転院を受け入れた。

漢方を中心に身体症状症に対応し、今はデパスはどうしてもつらいときに頓服でたまに服用するだけで、離脱症状も認めていない。

栄養療法も確かに大切で私も部分的に取り入れているが、高額なサプリを売りつけるおかしな商売をやっている心療内科医もいる。

精神科医でも光トポグラフィーで確定診断ができるかのような誇大広告、脳の磁気刺激によりあらゆる病気がすっと治ってしまうかのように誤解させるような誇大広告をして高価な治療費を支払わせ続けるという詐欺商法をやっている者も一部いる。

光トポグラフィーはあくまで診断の補助で参考程度のものであり、それだけで確定診断することはできないことを説明すべきだ。

磁気刺激の適応が限定されている(中等度以上のうつ病で十分な量の抗うつ剤治療を行なっても改善が認められないもの)し、治療効果の持続期間も限定されるということを説明すべきだ。

どの業界にも詐欺で儲ける者がいるので注意すべきだが、TVで売名行為を行っていると信じてしまう患者も少なくない。

リテラシーって言葉があるけれど、信頼できる相手か見極めるのは本当に難しい。

 

悪を正そうとすると〜べき〜べきというメンタルヘルス的にはよくない思考になってしまうが、良くないことは良くないと言いたい。

 

 

12月 25, 2022

わからない症状は精神科?-神経内科疾患編

以前、大企業でバリバリ働いていた管理職の知人が、私のところに相談に見えました。

「呂律もまわらなくなり、体の力が入らなくなった。字を書くのもやっと、歩くのも大変です。

総合病院(地域では患者数の多い大きな病院)などでさんざん調べたものの、血糖が少し高いとかその程度しか異常を認めないのです。精神的なものじゃないかと言われまして」

一通りお話を伺い、神経所見などとってみたところ、脊髄小脳変性症などの神経の変性疾患を疑いました。

心因らしきエピソードもなく、経過や症状からは解離性障害(転換性障害)らしさは認めません。

ふつうに考えて、まずは神経内科でしょう!ということで、知り合いの神経内科医にお勧めの病院を聞き、そちらに紹介しました。

多系統萎縮症というやはり脳神経の変性疾患でした。

具体的な病名までわからなくとも、これって神経内科の病気かどうかチェックしたほうがいいよね?って国家試験を受ける医大生のレベルでもピンとくる話だと思うのです。

どうして総合病院でそんな簡単なことができないのか?いろいな事情があると察します。

わからないとストレスなんじゃないの?精神科に行け、こういうことがしょっちゅうあります。

最近は、電話で私は何の病気でしょうか?何科を受診したらいいでしょうか?なんて電話も結構かかってきます。

ボランティアでトリアージする余裕はありません。

医療相談として有料でお話をうかがうという選択肢もあるでしょうが、無料で電話ですませたいという方がほとんどでしょうし、そんな時間もありません。

そういったご相談はお断りしています。

実際、トリアージする能力のある精神科はあまりないと思います。

何科を受診したらよいかわからない症状にお悩みの方は、何かで通院中であればその主治医にまずはご相談を、かかりつけがなければ一般内科あるいは総合診療科という選択肢があります。診療科としては総合診療科がベストだとは思いますが、数が少ないので、一般内科であればどの科を受診すべきかトリアージする能力は通常あるはずです。

 

 

 

12月 25, 2022

精神科薬の副作用-糖尿病内科編。

老年期女性。九州にお住まいでしたが、長年うつ状態で苦しんでおられました。九州の医療機関でいろいろな抗うつ薬を処方されたものの一向に良くならず、試しに使ってみたクエチアピンという非定型抗精神病薬が著効しすこぶる調子が良くなったそうです。何年か維持したのち、そろそろとやめてみたものの、やはりうつ状態となってしまい、その後も10年以上服薬を続けておられました。

事情があって上尾に転居され、当院で加療を引き継ぐことになりました。

症状には波があるようで部分緩解の状況でしたが、ご本人も現状維持を望み、同じ処方を希望されました。

特に身体的な既往もなく、体調も悪くないというので、ご様子を伺いながら投薬を継続しました。

ところが急に体調不良を感じ内科を受診したところ糖尿病が発覚し、総合病院に入院。

糖尿病内科の担当医から当科の情報提供および変薬の可否についてお問い合わせのご連絡を頂戴しました。

慌ててご本人と連絡を取り、クエチアピンが糖尿病の発症と関連している可能性があることを説明し、採血など定期的に行って管理すべきところを怠ったことを謝罪し、変薬の相談をさせていただきました。ご本人としては薬を変えることに大変不安をお示しでしたが、血糖に影響しないよう同等の薬効が得られるよう処方を検討し、フォローしていきました。

糖尿病内科の先生とは連絡をとり糖尿病の加療をお願いいたしました。

若い先生で、とても素晴らしい対応をされ、良い連携が取れました。

患者さんも元気になりとても助けられました。

 

非定型精神病薬の中には人によっては血糖値を上昇させてしまうことがあり、定期的に採血してフォローしていくことが望ましいとされています。

3か月に1回の採血が安全でしょう。もともと生活習慣病などで内科を定期的に受診されている方はそちらにお任せすることがありますが、そのような機会がない方は当院で採血させていただきたいと思います。

しかし今回は今まで何もなかったという油断から十分な注意を払わなかったのです。反省し再発防止に努めています。

ただ、実際の診療の中では採血検査でお金もかかりますし、注射が苦手という方も多く、3か月に1回の採血を受け入れてくださる患者さんは少数派です。ぜひ、健康管理のため採血希望とお申し出ください。

そのような状況でも常に目を光らせなければなりません。処方したものの責任です。

 

糖尿病内科編ではなく、私編でした。

12月 25, 2022

精神科薬の副作用ー麻酔科医編。

夫に旅立たれ、激しい頭痛などの体調不良を訴える70代女性。お嫁さんにも素直に頼ろうとしません。しかし、具合が悪いといえばお嫁さんが献身的に対応してくれます。

色々な科を回って原因もわからず、薬にも反応を示さず、精神科へ行けと言われて当院を受診。葛藤を素直に言語表出しないが、色々な悔しさや喪失の怒りを感じる方で、いつも奥歯を食いしばっているのがすぐにわかった。本人が言いたいことを言葉で表現できるようになるまでは、薬や治療ではびくともしない可能性がある身体症状症と暫定診断。とにかく治療関係を作って色々お話ができるようになることを目標に治療を続けていくことになった。やはり喪失体験が中核になっているので老年期のうつ病の治療に準じた形で攻めていくのが正攻法と考えた。

抗うつ薬ミルタザピンを中心に、激しい口渇も訴えていたので、唾液分泌作用のあるランドセンを併用。そのほか痛みに効果を認める柴胡疎肝湯など少しマニアックな漢方を使って少し安定した。少し良くなるとまたしばらくして頭痛がひどいとお嫁さん経由で訴えた。調整するたびによくなるが、安定してしばらくすると激しい頭痛を訴えた。これは疾病利得ありの身体表現だと感じたが、一旦ここで頭痛についてはきちんと調べておこうと思った。私が一番信頼し、日本一だと思う頭痛の専門家である先輩をご紹介し、診療を受けてもらった。頭痛専門医と私で手紙のやりとりをしながら試行錯誤したものの、やはり、薬をかえて一定期間改善するものの、しばらくすると不調を強く訴え、持続的な効果を認める治療は見つからなかった。心の葛藤には一才触れることができなかった。

 

すると本人から近くの中堅総合病院の麻酔科のペインクリニックを受診してきたと事後報告あり。

麻酔科医の見立ては、抗うつ薬など精神科の薬を飲んでいるから頭痛が起きているという話だった。

え?当院にかかる前から激しい頭痛を訴えているんですけど。。。薬が原因っておかしくないか?

しかしお手並み拝見するために指示に従って当科の薬を整理していきました。

するとどんどん患者さんの体調は悪くなっていきました。

その間に麻酔科からの処方薬がどんどん増えていき、依存症を作るだけのデパスの最大量処方、ベンゾジアゼピンであるリリカの最大量処方、麻薬性鎮痛薬を含むトラマドールを最大量処方。そのほか十種類程度の薬がてんこ盛りになっていました。

多剤てんこ盛り大量療法を続けたままブロック注射も開始、本人の訴えは改善せず。

私としては彼女が引っ掛かっている葛藤を処理することが一番重要だと思っていますが、それをやりやすくするための薬物療法がしたかったのです。麻酔科医によって精神科のくすりがよくないという不信感を抱かせたまま症状は悪化。改善が認められず、そうこうしているうちに麻酔科医が急に冷たくなったそうです。精神科の薬は飲むなと言っていた麻酔医が向精神薬をてんこ盛りにしているという…。本当は精神科の薬がよくないと思っているのではなくて、精神科医の治療自体を見下していたのです。今度はまた患者さんが私に泣きついてくるようになったのですが、麻酔科薬(中身は向精神薬)の薬づけにされてしまい、こちらとしては手の出しようがなくなりました。

かわいそうだという反面、彼女が自分がこれだけ辛いのだということをアピールするために行動化しすぎてしまった感もあり、助けてあげることはできませんでした。精神科はだめだ、自分が優れていると思っている麻酔科医と患者さんの関係はその後どうなったかは知りません。

今でも、どうすればもっと良い結果を出せたのかわかりませんが、とても気がかりな患者さんでした。

12月 25, 2022

精神科薬の副作用ー皮膚科医編。

30代の女性。時折蕁麻疹が出るようになったということで市内の〇〇〇皮フ科を受診。初老の女医が3分くらいみて精神科の薬のせいだと言われたそうです。かなり断定的に。

たしかに精神科の薬には薬疹が出ることがある薬がいくつかあります。

有名なのはラミクタール、テグレトール、ルジオミール、コントミンなどです。

また古いタイプの抗精神病薬を長期的に使っていると特有の皮疹が認められることがあるということは、何年か精神科単科病院に勤務していれば常識となります。やはり実際に見たことがあるかどうかというのは非常に大事な要素になります。

ベンゾジアゼピン系の薬を服用していると光線過敏症になる可能性があるということも重要な知識です。

どのような皮疹がどのようなタイミングで出るとか経過を見れば、関連性を推定することはある程度できます。

まあ、確かにどの薬で薬疹が出るかというのはわからないので、色々調べていくしかないのです。

患者さんから相談を受けて、一つひとつ薬を抜いたりして経過をみましたが、皮疹の方は改善されません。

その間薬を抜くわけですから患者さんは当然症状がぶり返し、苦しみに耐えながら実証実験を繰り返すわけです。

結局埒が開かないので、私が信頼する皮膚科を受診してもらい、最終的に大学病院で全ての薬のアレルギー検査をしてもらいました。

結局精神科の薬は全くの白で、薬疹の原因ではありませんでした。詳しくは忘れましたが、他の皮膚疾患だったそうです。

元々そこの皮膚科は適当な診療で有名で、脂漏性湿疹をニキビだと診断したり、専門性に乏しい様子でした。

〇〇〇皮膚科ではその後も他の患者さんでも「これは精神科の薬の薬疹です」と宣告し、不安に陥れていましたが、ことごとく誤診であることが判明しています。

どれだけこちらが迷惑しているか知らないんでしょうか。患者さんの身にもなってみてほしいですね。

わからないものをわからないと正直に言えない医師。

わからないと精神科の薬のせいだと決めつける医師。

そういわれてもおかしいと気が付かない身体の勉強が足りない精神科医も少なくありません。

精神科医ももっと体の勉強もして信用される診療を行うべきだと感じます。

大学で私のオーベン(指導医)だった水野先生が院長を務めていらっしゃる都立松沢病院では、精神科医のための身体科研修コースというのもあるようです。

精神科医が体も同時に診察すると実は精神科の治療的にむずかしい部分も出てくるのですが、わかっているかどうかはとても重要だと思うのです。

 

 

 

12月 24, 2022

精神科薬の副作用ー眼科医編。

自分は統合失調症なのか?という疑問を抱え、慶應大学病院から当院へ紹介されてきた男性。

小さい頃から生きることに悩み、自殺企図を繰り返し、入退院を繰り返してきた方。医療機関を転々としながら納得のいく診断や診療が得られないと感じていたようで、最終的には大学病院を受診するようになっていた。そこでも本人の納得いく説明が得られなかったとして、なぜか私に白羽の矢が立った。出身医局からの依頼となれば、なんとかやってみましょうということで引き受けた。

当院ではカウンセリングをやっていないということでご理解いただいていたが、この方を理解するためにはどうしても本格的なカウンセリングのような導入が必要だったので、私が時間をかけて生育歴から詳しく伺っていった。そのやりとりでわかったことは彼はどうしても哲学的な思考に迷い混む癖があって、その思考に私をつき合わせようとする傾向が認められた。セッションを積み重ねるうちに当職とも打ち解けていろいろな話をするようになり、大体の診断や親子関係の課題など見えてきて、少しずつ落ち着いていった。

その間も以前の医療機関から服薬している2種類の薬は継続していた。容量は少なかったが彼にとってその2つの薬はとても意味のある重要な薬だった。

今までどちらの薬の減薬を試みても変調をきたしてしまった由。

当院にきてからは安定してきたということもあったのかもしれない。

彼は世間に認められたいという欲求に駆られるようになったようだ。

ピアスタッフとして自分語りの大役を買って出ることになった。

しかしそれは主治医である私には内緒にされていた(私は別のルートで把握していた)。

発表の日程が近づくにつれ、不安感や焦燥感が出現した。

何か負担に感じていることがあるのではないかと尋ねるも、本人には思い当たる節はないといって、自分語りの件は隠していた。

そうこうするうちに彼の瞼(まぶた)が痙攣するようになった。

いわゆる眼瞼痙攣だ。

ストレスが原因であることが多いが、目の奥の血管が神経に触れてしまって出現する痙攣などもあるし、薬剤の副作用で出現することもある。

彼は早速、有名眼科チェーン店の一つを受診した。超高学歴の女医さんでインスタなどでご自身の生き様をアピールされているという。その眼科で彼は女医さんに「精神科の薬が原因で眼瞼痙攣が起きている」と宣告された。

ベンゾジアゼピン系の薬剤、特にデパス(エチゾラム)などで眼瞼痙攣(まぶたがピクピク痙攣する)や羞明(光が眩しく感じる)の副作用が認められうることは私も20年以上前から知っている。慶應病院での研修医時代の最初の指導医が薬理の大家であったため、当時眼科医も知らないような知識をたくさん教えてくださった。しかし彼に処方されていた薬は全く別の薬で構造も作用も違うものだった。そんな論文も見たことがないし、もしそのような新しい知見が出ているのなら教えてほしいと連絡した。しかし返信はなかった。エビデンスはないのだ。精神科薬を区別していないようで一括りにしているらしい。向精神薬と抗精神病薬は定義は違う。精神科のくすりは1種類ではない。

彼はそのことをとても気にするようになった。私は眼瞼痙攣との関連にエビデンスはないし、あなたの生きる力を支える重要な薬は安易にやめないほうがいいと伝えた。

しかし、彼は薬をやめてみたいと言った。

やむを得ず、彼が服薬していた2錠(1種類1錠)の薬を一種類ずつ時間をおいて薬を抜いてみることになった。

しばらく経って落ち込みや希死念慮が強くなり、仕事に行けなくなった。

非常に混乱し、哲学的なことにこだわり始め、なぜ生きるのかなど答えのない問いをぐるぐるとするようになった。

眼瞼けいれんは一向に改善しなかった。

慌てて服薬を再開したがなかなか症状は治らず、もとの量より薬を増やすなどして少しずつ落ち着いていった。

眼瞼痙攣は経過中変わらず生じており、眼科医はボトックス注射を繰り返した。

結局哲学的な思考や過去への逡巡などが収まらず、入院施設を紹介してお別れした。薬をやめてからは私が毎週のように彼の希死念慮に対応し、大変だった。眼科医はそのことを全く知らない。

 

「薬のせいだ」という軽く発せられた言葉が命を奪うかもしれないことを、その眼科医にも知ってほしい。超高学歴な人でも万能感が行き過ぎると、自分が見えているもの以上のことがあるかもしれないということに考えが及ばないのかもしれない。

 

 

12月 23, 2022

精神科の薬の副作用ー内科医編

時節柄、ちょっと楽しいブログでも書こうと思っていたのですが、気になることがありアップします。

ある女性が精神病症状を伴う不安状態の治療で当院に通院していました。

お薬を使ったところ改善傾向が見られたので、そのお薬を少し増やしたところとても調子が良くなりました。

しかし、その女性は本当は薬に少し抵抗感があるご様子でした。もちろん、薬を好んで飲む人は少ないし、薬なしで完全で健康でありたいというのは誰しもが願うところです。

そんな中、頭痛、発熱、鼻水などの症状が出現し、〇〇〇クリニック(内科)を受診。

ご時世的にコロナの検査をして陰性。細菌検査もしたが陰性とのこと。

薬を処方したが発熱や頭痛が続き、医師が下した判断は・・・

「メンタルの薬の副作用で熱が出ているに間違いない」とのこと。

精神科に強い偏見を持っている医師は、なんでも精神科の薬のせいにしようとします。

さらに、「大人が風邪で熱がつづくなんで10億円の宝くじを当てるのより確率が低い」と言い切ったそうです。

「今すぐ薬を辞めないと大変なことになる」「その精神科に行くな」とすごまれたそうです。

不安になった患者さんから連絡を受け、詳しく問診。

頭を振ると響く強い頭痛、吐き気、38度台の発熱、自律神経症状を伴わず。鼻水、咳少々。

これ見たら研修医でもわかりますよね?

特定できないウィルスによる無菌性髄膜炎も疑わなくてはいけません。

風邪は万病の元です!ウィルスなんて検査してもほとんど同定できないことが多い。

一方薬による熱の可能性はどうでしょうか?

おそらく内科の先生方は精神科の薬で発熱を生じている場面を見て治療にあたった経験のある方はほとんどいないと思います。

私は実際に何例も経験してきました。

やはり入院するような重症な患者さんで薬による発熱を経験しました。

1、悪性症候群:抗精神病薬による筋肉の固縮とそれに伴う筋肉の融解、著しい交感神経症状を伴った(いわばサイトカインストームのような)高熱。

2、セロトニン症候群:SSRIなどの抗うつ薬(と多くは相互作用をきたす薬物と併用して)による焦燥感、著しい交感神経症状を伴った(これもサイトカインストームのような)発熱。

3、薬疹を伴ったアレルギー性の発熱

などです。

これらは緊急事態なので、待ったなしで対処します。私の勤務していた足利日赤は精神科身体合併症の最後の砦のような病院でしたので自分で対処しましたが、通常のクリニックならばすぐに高次医療機関に転送コースです。

ですから、精神科薬による発熱には人一倍敏感です。

発熱の原因は精神科薬ではないことはほぼ断言できるものの、すでに患者さんは内科医より薬のせいだと言われて薬に不信感を持っています。

そういった状況を踏まえ「私としては経過や症状からは精神科薬による発熱ではなく、軽い髄膜炎などの感染症を疑います。」

とお伝えしました。

しかし担当医は感染症の確率は10億円の宝くじ当選より低いと断言しており、患者さんも困っています。

そこで、「私は違うと思うけれど、薬に対してご心配されているようですから、ひとまずお辞めになってもいいですよ」

「ただ、何か担当医の診療に疑念を抱いたら、すぐに別の医療機関で診療を受け、第3者の見立てを聞いてみてくださいね」

とお伝えしました。

というのも、〇〇〇クリニックは地元の医療従事者からは危ない医師として有名なのです。

開業まで勤務してきた病院でもトラブルの連続だったようです。

 

結局その後患者さんから電話があり、「やはりおかしいと思って直接総合病院に行きました。髄膜炎の診断で総合病院に入院しました、薬のせいだなんていってすみませんでした」と謝っておられました。担当医は髄膜炎で入院となったことを知りません。

いずれにしても髄膜炎はにおいや音で頭がガンガン響いて本当につらい症状が出てくるのでとにかく早く回復していただきたいと思いました。

悪いのは素人の患者さんではありません。プロフェッショナルなはずである担当医です。

超一流国立大学出身の医師がどうして研修医レベルの診断ができないのでしょうか?

そこが大変不思議ではあります。精神科の薬に偏見をもっていれば、それが原因に違いないというバイアスがかかります。

以前も提案しましたように医師などプロフェッショナルな資格については何年かに1回更新制にしてその都度試験を課すなど、専門家と言えるレベルをキープすることが必要なのではないでしょうか。

 

それから、薬の副作用について、大切なお話があります。医師でも知らない人がいます。

今やネットで薬の情報が溢れていますが、玉石混合で正しい情報に辿り着くのは難しくなっています。

医師が勉強できるような内容はネットで無料で多に入ることはほとんどありません。

お金を払って知識を得ることが通常です。専門家の意見を得るためには弁護士などそれなりの対価を払います。

ネットで無料で問題解決できるほどの情報は得られません。

また、情報があっても、情報を読み解く医学的な知識がないと正しく理解できません。

副作用と有害事象ってご存知ですか?

副作用は、薬が原因ではない!と断言できない、薬の使用により生じた有害な反応のことです。

原因かどうか、その確らしさの強さの順番に、「確実に因果関係あり」「多分関係あり」「因果関係の可能性があり」「多分関係なし」「関係なし」「不明」の6つに分類されますが、どこまでが副作用とされていると思いますか?

日本の場合(欧米とは異なり)「関係なし」以外を全て副作用として記載しています。

ですから「多分関係なし」「不明」なども含まれているのです。

欧米はもっとしっかり因果関係が疑われるものだけを副作用としています。

さらに、有害事象とはどういったことを指すのでしょうか?

原因かどうか因果関係とは全く関係なしに、薬を飲んでいた時に生じたあらゆる好ましくない有害な反応全てを有害事象と呼びます。

例えば、薬を飲んでいたときにたまたま風邪をひいたら、「熱、咳、鼻水、喉の痛み」などが有害事象として記載されます。

これを薬が原因であると勘違いしてしまうのです。

そういった基礎知識もなく、ネットの情報で、「熱」と書いてあったから、薬のせいに違いないというのは早計なのです。

薬の副作用でどのような機序で熱が出るのか詳しく知っている専門家から見れば、全く違う見解になります。

適当なことをいう人間ほど断言してしまいます。

わからないことも多く、結果が確定しにくい医療において、誇大広告、断言的な物言いは要注意です。

ネットの知識は調べてもいいけど、鵜呑みにしないほうがいいとおもいます。