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12月 24, 2022

精神科薬の副作用ー眼科医編。

自分は統合失調症なのか?という疑問を抱え、慶應大学病院から当院へ紹介されてきた男性。

小さい頃から生きることに悩み、自殺企図を繰り返し、入退院を繰り返してきた方。医療機関を転々としながら納得のいく診断や診療が得られないと感じていたようで、最終的には大学病院を受診するようになっていた。そこでも本人の納得いく説明が得られなかったとして、なぜか私に白羽の矢が立った。出身医局からの依頼となれば、なんとかやってみましょうということで引き受けた。

当院ではカウンセリングをやっていないということでご理解いただいていたが、この方を理解するためにはどうしても本格的なカウンセリングのような導入が必要だったので、私が時間をかけて生育歴から詳しく伺っていった。そのやりとりでわかったことは彼はどうしても哲学的な思考に迷い混む癖があって、その思考に私をつき合わせようとする傾向が認められた。セッションを積み重ねるうちに当職とも打ち解けていろいろな話をするようになり、大体の診断や親子関係の課題など見えてきて、少しずつ落ち着いていった。

その間も以前の医療機関から服薬している2種類の薬は継続していた。容量は少なかったが彼にとってその2つの薬はとても意味のある重要な薬だった。

今までどちらの薬の減薬を試みても変調をきたしてしまった由。

当院にきてからは安定してきたということもあったのかもしれない。

彼は世間に認められたいという欲求に駆られるようになったようだ。

ピアスタッフとして自分語りの大役を買って出ることになった。

しかしそれは主治医である私には内緒にされていた(私は別のルートで把握していた)。

発表の日程が近づくにつれ、不安感や焦燥感が出現した。

何か負担に感じていることがあるのではないかと尋ねるも、本人には思い当たる節はないといって、自分語りの件は隠していた。

そうこうするうちに彼の瞼(まぶた)が痙攣するようになった。

いわゆる眼瞼痙攣だ。

ストレスが原因であることが多いが、目の奥の血管が神経に触れてしまって出現する痙攣などもあるし、薬剤の副作用で出現することもある。

彼は早速、有名眼科チェーン店の一つを受診した。超高学歴の女医さんでインスタなどでご自身の生き様をアピールされているという。その眼科で彼は女医さんに「精神科の薬が原因で眼瞼痙攣が起きている」と宣告された。

ベンゾジアゼピン系の薬剤、特にデパス(エチゾラム)などで眼瞼痙攣(まぶたがピクピク痙攣する)や羞明(光が眩しく感じる)の副作用が認められうることは私も20年以上前から知っている。慶應病院での研修医時代の最初の指導医が薬理の大家であったため、当時眼科医も知らないような知識をたくさん教えてくださった。しかし彼に処方されていた薬は全く別の薬で構造も作用も違うものだった。そんな論文も見たことがないし、もしそのような新しい知見が出ているのなら教えてほしいと連絡した。しかし返信はなかった。エビデンスはないのだ。精神科薬を区別していないようで一括りにしているらしい。向精神薬と抗精神病薬は定義は違う。精神科のくすりは1種類ではない。

彼はそのことをとても気にするようになった。私は眼瞼痙攣との関連にエビデンスはないし、あなたの生きる力を支える重要な薬は安易にやめないほうがいいと伝えた。

しかし、彼は薬をやめてみたいと言った。

やむを得ず、彼が服薬していた2錠(1種類1錠)の薬を一種類ずつ時間をおいて薬を抜いてみることになった。

しばらく経って落ち込みや希死念慮が強くなり、仕事に行けなくなった。

非常に混乱し、哲学的なことにこだわり始め、なぜ生きるのかなど答えのない問いをぐるぐるとするようになった。

眼瞼けいれんは一向に改善しなかった。

慌てて服薬を再開したがなかなか症状は治らず、もとの量より薬を増やすなどして少しずつ落ち着いていった。

眼瞼痙攣は経過中変わらず生じており、眼科医はボトックス注射を繰り返した。

結局哲学的な思考や過去への逡巡などが収まらず、入院施設を紹介してお別れした。薬をやめてからは私が毎週のように彼の希死念慮に対応し、大変だった。眼科医はそのことを全く知らない。

 

「薬のせいだ」という軽く発せられた言葉が命を奪うかもしれないことを、その眼科医にも知ってほしい。超高学歴な人でも万能感が行き過ぎると、自分が見えているもの以上のことがあるかもしれないということに考えが及ばないのかもしれない。

 

 

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