だれしもトラブルがあったり、体調がすぐれない時は、気分が落ち込んだり、やる気がなくなるものです。そのような日常的な憂うつ感は、何か良いことがあったり、数日もたてば気分が晴れてくるものです。
しかし、いくら良いことがあっても気持ちの落ち込みが解消されず、1日中憂うつで沈んだ気分で、自分の好きなことすら手につかない状態が長期間続くことがあります。根性で乗り切ろうとしても、無理に気晴らしをしようとしても、かえってひどくなるばかりです。こころのエネルギーが低下して、まるでアクセルをふかしても前に進まない状態となります。このような状態を抑うつ(よくうつ)状態と言います。
抑うつ状態となる代表的な病気である「うつ病」の症状を具体的に挙げますと、以下のようなものがあります。
- ほとんど一日憂うつで沈んだ気分で休みの日も変わらない
- 今まで楽しかった趣味や好きなことにも興味や喜びを感じられない
- 集中力がなくなった、決断力がなくなった
- 動きがのろくなった、あるいは落ち着きがなくなった
- 「周りに迷惑ばかりかけている」とか「自分には価値がない」という思いにとらわれる
- 眠れない、朝早く目が覚める
- ちょっと何かすると疲れる
- 微熱、頭痛や肩こり、体の痛み
- 胃腸の調子が悪い
- 食欲がなくなった、体重が減った
- 性欲低下
うつは無理をしすぎて自分の「軸」からブレてしまった、そして自分の「軸」に戻ろうとする力が働いたときに出るこころやからだの痛みがうつの症状であるとも言えます。
真面目で几帳面で仕事を抱え込み、自分で何もかもやろうとする人(メランコリータイプ)は、自分の「軸」から大きくずれるまで他人に合わせて無理をしやすく、それゆえに重症化しやすいですが、薬をきちんと使って休養を十分に取ると治療に反応しやすいです。お薬はたくさんの種類があり、単に新しいものが良いと言うわけではなく、体質に合ったものを選んでいくことをお勧めしています。
また、他人からの評価に過敏で傷つきやすく自分の「軸」が定まっていない人が、挫折を経験することで“うつ”になることがあります。しかし、何か良いことがあれば気分は良くなりますし、自分を責めるのではなく他人への怒りが主体で、食欲は減るのではなく過食になったり、不眠ではなく過眠になったりすることがあります。
この状態は「うつ病」とはだいぶ様子が異なるために“非定型うつ病”ということがあります。厳密には「うつ病」の一種とは言えないかもしれませんが、未熟な子供の「うつ」もこのような症状がみられることがあります。パニック症に伴って発症することもあります。
“新型うつ”や“非定型うつ”は、発達障害や未熟なパーソナリティなどが背景に隠れていることも少なくなく、単にお薬や休養だけでは一時的な回復しか望めず、環境調整や社会生活を送っていくためのトレーニングをしながら成長を待つ時間も必要となります。医療では対応が難しいケースもあります。
場合によってはカウンセリングが必要な場合もありますので、その時はカウンセリングを行っている施設への通院を検討する場合があります。
「くよくよ思い悩みやすい」タイプの方に見られます。性格と症状が絡み合っているために治療には長期間を要することが多いです。そのほか「うつに似た状態」として、トラウマがある人の感情の麻痺状態や絶望感、境界性パーソナリティーの人の空虚感や自己愛性パーソナリティーの人のプライドの傷つきによる怒り発作など、多様な状態がありますので、それを見極めたうえで治療を選択していく必要があります。
ちなみにパーソナリティ障害の方の症状は病気というよりもその人の個性そのものとなっている可能性があり、ご本人の自覚がないまま治そうとするとかえって混乱を招いたり、通常の医療による治療のモデルとは若干異なる印象を受けています。当院ではパーソナリティ障害に対応したカウンセリングは行っておりません。お電話の段階で評価できる場合は、最初からパーソナリティ障害に対応した施設をご利用くださいますようお願いしています。ご了承ください。
以上のように、実は“うつ”の診断は非常に難しいのです。
初回の診察だけではどのタイプの「うつ」なのか、あるいは、「うつに似た状態」なのか「診立て」が定まらない時もありますが、その場合は治療による反応を見ながら見極めてゆきます。
双極性障害では、憂うつで無気力なうつ状態と、それとは正反対の自信に満ち溢れハイテンションで活動的になる躁(そう)状態を繰り返します。躁状態が軽くて短期に終わると、それを病気とは感じず、「うつ病」と思われてしまうことがあります。
誰でもわかるような激しい躁状態が一定期間以上みられる場合を「双極性感情障害Ⅰ型」、周囲に大きな迷惑をかけない程度の少しハイな時期が短期間みられる場合を「双極感情障害Ⅱ型」といいます。
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睡眠時間が普段より2時間以上少なくても平気になる
- 寝なくても元気で活動を続けられる
- 人の意見に耳を貸さない
- 話し続ける
- 次々にアイデアが出てくるがそれらを組み立てて最後までやり遂げることができない
- 根拠のない自信に満ちあふれる
- 買い物やギャンブルに莫大な金額をつぎ込む
- 初対面の人にやたらと声をかける
- 性的に奔放になる
Ⅰ型の場合、躁状態で危険な行動や極端な浪費などが見られ、患者さんは大切な人間関係や財産のみならず生命を失ってしまうこともあります。外来治療では対応が難しく、ご本人の安全を守るために、精神科病院への入院治療が必要になることも少なくなく、当院のキャパシティではご本人の安全を確保することが困難です。
Ⅱ型の場合、ハイな時期は普段より体調もよく仕事もはかどるため、心地よく感じられます。それゆえ、患者さんはハイな状態を本来の自分の姿であると思いたがります。
しかし、ハイの時期になった後は、その分 必ずうつになります。
そのため、ハイな状態にならないようにコントロールすることが治療の基本となるのですが、ご本人がハイな状態を求めることも多く、そこが治療停滞の原因となります。
患者さんの「うつ症状」の訴えに従って、気分を持ち上げるうつ病の治療だけをしていてもなかなかよくなりません。気分の波を抑える薬をきちんと使う必要があります。
大切なのは、症状が目立たなくなっても再発のリスクは高く、治ったわけではありませんので治療を続けていくことです。
しかし双極性障害の患者さんは症状が良くなるとすぐに治療をやめたがることが多いのです。なぜならば、患者さんは本来の自分の姿よりもハイな状態を好み、それが本来の自分の姿であると思いたいからです。「薬に頼らないで何でもバリバリできる自分」という理想像に身をゆだねることで現実の不安から目を背けたいのかもしれません。本来の自分の姿がいやでアルコールで気分をハイにしようとして、アルコール依存症になってしまうこともあります。
治療をやめてしまい、再発を繰り返すとどうなるでしょうか?
次第にうつと躁を短い期間で繰り返すようになり、健康な期間はほとんどなくなっていきます。薬も効きにくくなり、人間関係でも信用を失い、家庭崩壊、失業、財産も失っていきます。
そうならないために、服薬を続けてくことが大切なのです。
当院では、双極性感情障害Ⅱ型の知識の教育、服薬指導、適切な服薬のための血中濃度測定、日常生活でのポイントの指導などを行っています。
ストレスとは外部からの刺激(ストレッサー)によって引き起こされる心やからだに生じるゆがみと言われています。このストレッサーに対して人は防衛反応を示して、心身のバランスを保とうとします。人それぞれ異なるこの防衛反応の仕方を把握することは、治療上とても重要な意味を持ちます。また、その後のより良い心の保ち方のための大いなるヒントが隠されています。
一般的にストレスという言葉には悪いイメージがありますが、実はストレスには良い面も悪い面もあります。適度な運動によって身体にとっては良いストレスが生じます。また、試験を受けたり大会に出場して、プレッシャーを乗り越えて結果を出せた時に得られる達成感はストレスの良い面と言えます。私たちはストレスの良い面を通じて自分自身を向上させ、生きがいを生み出すことができるのです。
しかし、ストレッサーが過剰であったり長期に及ぶ場合には様々な心身の不調を招くことがあります。
また、同じ出来事でも人によってストレスとなる場合もならない場合もあります。それは、その人の考え方・感じ方・行動パターンなどの違いによります。
(長時間枠を設定して行う認知行動療法カウンセリングは行っていません)
通院中の患者さまには上述のようなマインドフルネスや認知行動療法的視点を取り入れた簡単なアドバイスをすることがあります。しかし、心の病とは言えないような日常のストレス相談や、生き方や人生の意味などについてのご相談がメインとなる方は保険診療の対象とはならず、初診予約の段階でお断りさせていただくことがございます。
自律神経は体温の調節や脈拍数の調節、食べ物の消化など体の調子を整える役割を果たしています。そして、自律神経失調症は身体を働かせる自律神経のバランスが乱れるためにおこる様々な身体の不調のことをさします。「検査をしても異常がないのに様々な体調不良を訴える状態」とされることも多く、「原因がわからないのでとりあえず病名をつけておく」医師もいるようです。実際は、自律神経失調症と言う病名は正式な医学的専門用語ではありません。身体の病気が隠れていないかしっかりと調べてから診断するべきで、正式には鑑別不能型身体表現性障害とか身体症状症などと言います。
症状は人によってさまざまで、いくつか重なって症状があらわれたり、症状が出たり消えたりする場合もあります。
多くみられる症状には、めまい、ふらつき、動悸、たちくらみ、息切れ、倦怠感、疲れやすいこと、手足の冷え、下痢、便秘、吐気、頻尿、生理不順、頭ののぼせ、頭痛、頭重感、肩こり、不眠、食欲不振、微熱などがあります。
月経前症候群や更年期障害も多くの自律神経の失調症状や精神症状を伴うことが良く知られています。
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生活のリズム、食事、睡眠、運動などのライフスタイルの見直し
- 感情の適切な言語化
- 腹式呼吸、筋弛緩などのリラクゼーション法、ヨガ、ストレッチ
- 音楽療法やアロマテラピーなど
- マインドフルネス
女性は50歳前後になると閉経を迎えます。更年期障害は、卵巣機能の低下による女性ホルモン低下によって起こり、環境や性格なども大いに影響しながら様々な症状が生じます。ホルモンバランスの乱れが、更年期障害の一つの大きな原因となります。女性ホルモン欠乏による典型的な症状は、ほてり・発汗です。女性ホルモンの欠乏症状に対する治療法としてはホルモン補充療法(HRT)などがありますが、副作用などをしっかり確認しながら進めていかねばなりません。HRTを希望される場合は婦人科の専門医のもと治療を受けることをお勧めする場合があります。
ほてりや発汗を含め、そのほかの自律神経失調症症状にも、漢方が大きな力を発揮することがあります。
また更年期を迎える時期の女性は、子どもや姑・夫など家族の問題を抱えることも多く、そのストレスも伴って、「うつ」や「不安症」も発症しやすいようです。 子どもが大きくなって自立することで“空の巣症候群”になってしまう人もいます。
閉経後の老年期を子どもとお互いに自立した第2の人生として楽しく過ごすために、趣味や生きがいを見つけることも大切です。
当院では、血液検査による卵巣機能低下の有無をチェックするとともに、検査で異常が出ない体調不良に対しては西洋薬や漢方薬を処方し、さらに背後に“うつ”がないかチェックもしていきます。
月経3~10日位前になると決まって不快な心身の症状が出現するという女性は、少なくとも5人に1人います。プロゲステロン(黄体ホルモン)の増加やセロトニンの低下などの影響が考えられ、むくみや胸のはりや痛み、だるさ、頭痛、腰痛、にきびや皮膚の荒れなどの身体症状のほか、イライラや憂うつなどの精神症状が生じることもあります。20代では身体症状が目立つことが多く、30代では精神症状が目立つことが多いようです。30代の女性は仕事や子育てなどのストレスが強くかかっていることと関連しているかもしれません。精神症状には漢方薬やSSRIという種類のお薬が効くことがあります。当院でも漢方薬だけで症状がコントロールできている方もいます。また、あまり知られていませんが、月経前に風邪のような症状が毎回認められる人がいます。これには漢方薬が著効することがあります。
適応障害とは、学校や職場、家庭などの身の回りの環境にうまく適応することができず、さまざまな心身の症状があらわれて社会生活に支障をきたすものをさします。
だれでも辛い出来事や思いどおりにならないこと(社会生活上のストレス)によって、不安やイライラが強くなったり(不安感)、悲しみや憂うつになったり(憂うつ感)、時に投げ出したくなったり(逸脱行動)することは、経験したことがあると思います。
つまり、適応障害はストレスが自分の処理能力を超えて容量オーバーとなり極端に心身の症状が現れ病気となった状態と言えます。本人の特性や周囲のサポート不足が関与していると考えられています。背景に発達障害や知的障害が隠れていることも時々あります。
仕事を休んだり、配置転換したり、あるいは転職するなど、ストレス源から遠ざかることで良くなることも多いですが、職場や学校を休めない人や、家庭のストレスなどはなかなか避けることができないため、長引く人も少なくないのが実情です。
症状としては
- うつ症状を中心とする状態
└憂うつ、絶望感、涙もろさなど
- 不安症状を中心とする状態
└不安、恐怖感、イライラなど
- 問題行動を中心とする状態
└勤務怠慢、過剰飲酒、ケンカ、無謀な運転などの年齢や社会的役割に不相応な行動 - 身体症状を中心とする状態
└頭痛、倦怠感、腰背部痛、感冒様症状、腹痛など
だれしも、大勢の前で発表するときなど緊張するものですが、繰り返していくことで徐々に慣れていくものです。
しかし社交不安障害(SAD:Social Anxiety Disorder)では、人前での緊張や不安が強すぎて強烈な羞恥心にとらわれ、それにともなって現れる身体の症状が、会話や発表、発言に支障をきたすほどにひどくなります。その苦痛から人前で何かをする機会を避け続け、社会的に孤立してしまう状態が社交不安障害です。
緊張を避けるために、学校や職場に行けなくなることもあります。
これまで対人恐怖症、あがり症、赤面恐怖症と呼ばれていたものもこの障害に含まれます。
よく知らない人と会ったり、注目されるような発表や発言を求められたりするなどの社会的状況、人前での電話をかけたり、食事や字を書いたりするなどの社会的行為に対して強い恐怖をいだきます。
また恐怖にともなって、緊張・赤面・発汗・ふるえ・めまい・動悸・声がでない・息苦しさ・腹痛・頻回の尿意・ぎこちない行動など身体の症状が現れるため苦痛が強く、さらに、この身体の症状が余計に周囲に「変に思われるのではないか」という不安につながり、緊張症状を強める結果となります。
症状が出る状況としては
- 人前で何かを発表することに、極度に苦痛を感じる(スピーチ恐怖)
- オフィスなどで、かかってきた電話に出るのが怖い(電話恐怖)
- 人前で字を書こうとすると、手が震えてしまう(書痙(しょけい))
- 誰かと一緒だと食べ物が喉を通らない(会食恐怖)
- 人にみられていると思うと、何かを持った手が震えてしまう(振戦恐怖)
1.SSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)は社交不安障害の薬物治療の基本となる薬です。社交不安障害を引き起こす原因のひとつとなっている脳内物質のアンバランスを整え、不安を感じやすくなっている脳内の状態を是正し不安を感じにくくするといわれています。1年間以上は定期的に服用し、行動パターンが変化して定着するまで使用する必要があります。
2.抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)も患者さんの気持ちを落ち着かせ、不安や緊張を和らげる働きをします。SSRIに比べて即効性があるため、スピーチの前に飲んでおくといったように、必要なときだけ使うこともできます。毎日定期的に服用すると効かないばかりか薬に慣れてしまう可能性があります。
3.β遮断薬(自律神経調整薬)は自律神経に作用し、緊張時に現れるふるえや動悸、発汗などの身体症状を抑えます。あらかじめ予測がつくイベントの前だけ使う事ができます。
認知行動療法、暴露療法、森田療法などさまざまなアプローチがあります。薬物療法と並行して精神療法を行っていきます。
まず、適度な不安や恐怖には、身の危険を回避する良い面もあります。不安はあっても良いのです。「不安をなくす」ことを目標にしないことは大切です。
一度うまくいかないことがあると、次も必ずうまくいかないという「思いこみ」(考え方のくせ)がある人が多いようです。考え方のくせを見直し、行動を少しずつ変えていきます。(認知行動療法)
また、あえて苦手な状況に身を置き恐怖になれる暴露療法というものもあります。嫌なことを避けているばかりでは治りません。
「なんとかなった」と思う体験を積み重ねていくことが考え方のくせを修正するのに役立ちます。
さらに踏み込むと、恥の意識の裏には「人前でうまくやりたい」という自分へのこだわりがあります。自分自身のことについて秘密にせず他者と共有することが治療的に作用することがあります。
あるがままの自分と他者を受け入れ、「自分だけが特別ではない」と次第に気づいていきます。
パニック症(障害)は、突然予期せず不意打ちに動悸や息苦しさなどに襲われて強い不安を感じるパニック発作が繰り返しおこる状態をいいます。
動悸や発汗、息苦しさ、窒息感、胸の痛み、吐き気、下痢、めまい、ふらつき、ふるえ、しびれ、口の渇きなどのさまざまな身体のサインや、「死んでしまうかもしれない」という恐怖感や「おかしくなってしまうのではないか」という不安感などが、突然やって来ます。過呼吸発作を伴う事もあります。患者さんは「心臓発作ではないか?死ぬのではないか?」という強烈な不安に襲われ、救急車で病院にかけつけることがありますが、病院に着いたころには収まっていて「異常ない」と言われることが多いようです。
そのまま帰宅すると、数日を置かずまた発作が起こると言う事を繰り返すので、そのうち「また発作が起こるのではないか?」と発作の再発を心配し(予期不安)、悪循環が生じていきます。
すぐには逃げられないような場所や状況を避けるようになることもあり(広場恐怖※)、電車やバスで自由に外出できないなど社会生活を送る上で著しい苦痛を感じます。アルコールに助けを求めてアルコール依存症になってしまったり、不安に疲れ果ててうつ病になってしまう人もいます。こじれてしまうといろいろな病気を伴ってくることがあるので、早めの受診を心がけてください。
※ここでの「広場」は例えば、飛行機、電車、高速道路、トンネル、渋滞、混雑している映画館、買い物レジの列、歯科医院、美容院など、自分がすぐにその場を逃れたいと思っても逃れられない状況のことを指します。
まずは、「アラームの誤作動」自体をお薬でしっかりと抑えてあげる必要があります。
パニック症(障害)にもいろいろなタイプがあるので、一概に新しい薬がすべての人に合うと言うわけではありません。症状によってきめ細やかに選択していきます。どうしても西洋薬に抵抗がある方は、漢方薬の選択肢もお示しします。
幸い、こじれていなければ、パニック発作自体は薬を服用するだけで治まっていくことが多いですが、「また発作が起きるのではないか?」と言う不安はなかなか消えにくいです。パニック発作への対処法を学んだり、認知行動療法という手法で少しずつ日常生活の幅を広げていきます。「薬に頼らず気持ちだけで治したい」という方は、いつまでもアラームが鳴りだす恐怖体験が消えずに長引く傾向にあります。自己判断で服薬を中断しないようにしましょう。
お薬と暴露療法を上手に組み合わせながら、認知を改善していきます。
広場恐怖についてはベンゾジアゼピン系安定剤の定期的連用が無効であるため、適切な治療を受けてなるべく早く日常生活を取り戻すことが大切です。
過敏性腸症候群とは、下痢や便秘などを伴う腹痛やガスがたまってお腹が張るなどの腹部の不快感が慢性的に繰り返される病気です。
通常の腹痛とは違い、試験前や大事な会議などによるストレスが原因で起こる症状です。通勤電車など逃れられない場所で生じることも多く、一部パニック症(障害)との関連も考えられています。
便秘型の人は、過敏性腸症候群とは気づかれずに市販の下剤などで対処されていることが多いようです。
下痢型の人も、内科などで整腸薬などを処方されていることが多いようです。それでもうまくいかない時に当科を受診することが多いようです。
便秘下痢交代型の人は、便秘と下痢の両方に効くようなお薬や漢方薬でまずは反応を見てみます。
ガス型の人は、内科などでガスを減らすお薬が処方されることがありますが、あまりうまくいかないことも多いようです。体質にあった漢方薬を探すのも一つの選択肢です。
パニック症(障害)との関連が疑われるような状況では、パニック症(障害)の治療をすることがあります。
過敏性腸症候群と同様に、緊張する場面にかぎって尿意を感じて頻回にトイレに行きたくなる病気です。「すぐにトイレに行きたくなったらどうしよう」という不安で、試験や面接など緊張する場面を避けるようになります。
治療としては軽症なら緊張する場面のみ抗不安薬を使用するなどの方法がありますが、生活に支障があるようであれば、継続的にお薬や漢方薬を服用します。
また、膀胱に十分に尿を貯めてから排尿するよう習慣づけることも並行していきます。
ただし、頻尿は、尿を排出する膀胱や尿道などの病気、糖尿病、高血圧、睡眠時無呼吸、水分のとりすぎなどによっておこることも多いため、まずは泌尿器科などで調べてもらいましょう。
睡眠時間が短い、途中で覚醒する、睡眠が浅いなどで夜間の睡眠に問題があるために、昼間に眠い、体が疲れやすい、イライラする、意欲がないなど、昼間の生活の質が低下した場合を不眠症といいます。
入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒などのタイプに分けられることが多いです。
「眠れなくても死にはしない」という乱暴な言い方をされる方もいらっしゃいますが、不眠が肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常などの生活習慣病、あるいは心臓血管イベントの誘因になることがわかってきています。
「睡眠薬を飲むと認知症になってしまうのではないか?」という記事で不安を煽られた方も多いと思いますが、逆に不眠が認知症のリスクになる可能性も最近の研究で示唆されています。
さらに、入眠障害がある方はうつ病の発症する可能性が高くなるというデータがあります。
(逆に、うつ病にかかると中途覚醒や早朝覚醒が増えます)
やはり、不眠も良くないし、あるタイプの睡眠薬を大量に使いすぎるのも良くないのでしょう。
睡眠改善の治療としてはまずは生活指導から始めます。
不眠症の方には1日の生活パターンをお伺いし、問題点がないか点検していきます。
不規則な生活や、交代勤務をされている方は睡眠には過酷な条件と言えるでしょう。
生活習慣を改善しても眠れない場合は睡眠を促進する薬を使うことがありますが、睡眠薬服用に対して不安感を抱いている方もおられます。単なる一過性の不眠症であれば、薬を使って一定期間眠れるようになったら、薬から離れていくことが最終目標になるわけですが、こころの病に伴う不眠症は現実的には簡単に睡眠薬をやめるわけにはいかないこともあります。
不眠症にたいして睡眠薬を使う必要が生じた場合ですが、まずはなるべく副作用が少なくて、依存性の低いものを選択していくことが習熟した精神科医の常識となっています。
また、睡眠薬を使う必要がある方の中には、睡眠薬の使い方を間違えている方が意外と多いです。眠れない人は、「今日もまた眠れないのではないか、また眠れなかったらどうしよう」と睡眠に対してこだわるようになります。これを神経症化といいます。
一方「薬には頼りたくない、癖になったらどうしよう」という不安にも突き動かされます。
そのため、眠れなさそうな時だけ睡眠薬を飲んでその他の日は飲まないなど、飲んだり飲まなかったりします。そうすることで、 結局「今日は眠れるか、眠れないか」と 睡眠にたいするこだわりをずっと持ち続けることになります。そのため余計眠れなくなるのです。
睡眠薬が必要になった方は、睡眠薬を毎日続けて飲んでいき、睡眠のことをあまり考えなくても眠れるようになって、それが習慣となり自信がついてから、薬の減量を考えていったほうが良いです。
薬の減量には作戦がありますから、自己判断で急にやめないようにしましょう。
睡眠薬を頓服で使うのは、たまに眠れないとか、何か次の日緊張する行事があるときだけ眠れないとか、そこまで軽症化してからが良いと思います。
睡眠薬の使い方でもう一つ重要なことがあります。
睡眠薬を服用したら、布団に入りましょう。
なにか作業をしていると、寝るタイミングを逃してしまって結局眠れなかったり、あるいは、寝ぼけて異常行動をとってしまうこともあります。アルコールとの併用も危険です。
なお、睡眠薬との相性の問題で、一回寝付いた後、夜中に起きだして過食をしてしまうという「睡眠関連摂食障害」が生じることもあります。
また、睡眠に関連して、悪夢を毎日見るとか、夢ばかり見ていて寝た気がしないという方もおられます。夢にはいろいろな意義がありますが、どうしても辛い時にはお薬で調整することがあります。
レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)は夕方から夜にかけて脚を中心に安静時にむずむずする不快感が生じ、動かさないと落ち着かないため、不眠の原因になったり、よく眠れずに生活の質がおちたりする病気です。患者さんは横になっていても身の置き所がなく歩き回りたくなるなどとおっしゃいます。
鉄欠乏性貧血の方や腎臓が悪い方にも多いとされ、当院では採血で確認できるものはチェックしていきます。
周期性四肢運動障害は、むずむず脚症候群の80%程度に合併するもので、睡眠中に主に脚を中心とした周期的に「びくん」とする動きが生じて、目が覚めやすくなる病気です。
夢をみながら、寝言や暴れるなどの異常行動を繰り返す病気です。
夢をみるのはレム睡眠の時ですが、通常レム睡眠の時は、筋肉の力が抜けています。この病気ではレム睡眠のときにも筋肉の力が入ってしまい、夢の通りに行動してしまうことになります。(人と争ったりする夢をみて、隣で寝ている妻を叩いてしまうなど、危険な行動をとることもあります。)
神経疾患の前兆症状である場合もあります。他に何か症状を伴うようでしたら、神経内科の専門医を受診していただく場合があります。
睡眠中にいびきと無呼吸(呼吸が止まる)を繰り返す病気です。
医学的には、10秒以上の気道の流れが止まった状態(無呼吸)が一晩(7時間の睡眠中)に30回以上、もしくは1時間あたりに5回以上あればSASと診断します。
いびきが聞こえるのは、空気の通り道に狭い部分があるためですが、更に上気道が塞がると、呼吸ができず、酸素欠乏により苦しく感じ、睡眠が浅くなります。 長い時間寝ても、熟睡感がなく、昼間眠たくなります。
昼間の眠気のために交通事故や労働災害を起こしやすく、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞、心不全などの病気の合併も起こりやすくなります。
当院では「ウォッチパッド」という新しいタイプの自宅で測定できる検査機器を導入しております。
精密検査は呼吸の状態など、とても正確な情報が得られますが、入院が必要で大変手間がかかります。他にも自宅でできる簡易な検査装置がありますが、睡眠の深さなど精密な検査結果を得るのは難しいです。しかし、「ウォッチパット」は驚くべき性能があります。例えば、あおむけ、横向き、うつぶせの姿勢で寝ていた時間がいつで、そのとき無呼吸だったかどうか、血中酸素濃度がいくらだったか、さらに覚醒、睡眠(軽睡眠、深睡眠、REM睡眠)段階の情報を同時にチェックしてくれます。精密検査に迫る豊富な情報が得られるのです。
当院で検査をしたのち、さらに精密検査が必要な場合は検査が可能な病院をご紹介することもできます。
昼夜のサイクルと体内時計のリズムが合わないため、社会生活を送る上での望ましい時間帯に睡眠をとることができず、活動に困難をきたすような睡眠障害をいいます。
医療従事者、警備関係者などの交代勤務による睡眠障害もここに含まれます。
若者に多いのが、極端に夜寝る時間が遅く(ひどい場合は朝方にねる)、昼頃までねてしまう睡眠相後退症候群です。逆に早寝早起きの睡眠相前進症候群は、ご高齢の方に多くみられます。基本的に高齢になるほど必要な睡眠時間が短くなっていくのですが、 ご本人が長い睡眠時間にこだわって不要な睡眠薬に依存している方もおられます。
「不注意(気が散ってしまう)」「多動性(じっとしていられない)」「衝動性(思いついたらすぐに行動してしまう)」という症状があります。
基本的には幼少時から認められる症状であり、その人の個性でもあります。脳の働きが一部十分でないことが原因です。能力の発達の凸凹であるとも言え、広い意味では発達障害の一つであるとも解釈できます。
程度にもよりますが、多動性や衝動性は年齢を重ねるうちに落ち着いてくる場合が多いようです。しかし、不注意優勢の場合、社会に出てから、不適応を起こし、適応障害や気分障害などを合併される方もいらっしゃいます。
- 注意が長続きせず、気が散りやすい
- 忘れ物が多い、必要なものをなくしてしまう
- 仕事(課題)や作業(活動)を順序だてて行うことが難しい
- 勉強や仕事などで不注意な間違いをする
- 片付けるのが苦手
- 興味のあることには集中しすぎてしまい切り替えが難しい
- 話を聞いていないようにみえる
- 同じことを繰り返すのが苦手
- 約束を守れない、間に合わない
- 時間管理が苦手
- 座っているべきときに落ち着いて座っていることが難しい
- 遊びや余暇活動におとなしく参加することが難しい
- 過度におしゃべりをする
- 貧乏ゆすりなど、目的のない動き
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質問が終わらないうちに出し抜けに答えてしまう
- 順番を待つのが難しい
- 他の人がしていることをさえぎったり、邪魔したりしてしまう
- 思ったことをすぐに口にしてしまう
- 衝動買いをしてしまう
ADHDではないかと自己診断して受診される方の中に、診察の結果ADHDではないと診断される方もおられます。本当にADHDなのか、それとも他の病気なのか、問診や薬への反応で明らかにしていきます。現在はADHDの治療薬としてはストラテラとコンサータ、インチュニブの3種類のお薬を使うことができます。
薬を使うことで、「頭がすっきり働くようになった」「学習しても身につかなかったのが、身につくようになった」「授業が集中して聞けるようになった」という声を聴きます。
ただし、薬をただ飲んでいるだけではあまり意味がないかもしれません。
薬で落ち着いて集中できるようになっている間に、学習したり練習したりして技術を身に着けることをしっかりやっていく必要があります。