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9月 1, 2023

カウンセリングと精神科の診察の違い。 編集中

患者さんに「カウンセリングを受けてみたい」と言われました。

昔勤務していた病院で主治医ではなかったのですが、何度か診察したことがあり、私を頼って当院に転院してきた患者さんです。

当時は生きる力もなく、閉鎖病棟の保護室で隔離されているほどの重病でした。まだまだ年齢も若く、なんとかしてあげたいと思い、主治医の先生と力を合わせてあれこれと支援してきました。当時私はヨガやマインドフルネスに力を注いでいたので、3人で体操のようなことをしていました。当時の院長にはとても馬鹿にされましたが、時代を先取りしすぎると理解されないので「この人にはまだわからないのだな」と気にしないようにしていました。

上尾メンタルクリニックではカウンセリングを行なっていないと明言しているのですが、15年も知っている患者さんで、ある程度カウンセリング的な要素も必要な方でしたので、特別に通常の診察に加えて時間枠を決めない限定的なカウンセリング(無料)みたいな形でずっとやってきて、だいぶ良くなってきた方です。

ですので、「カウンセリングを受けたい」と伺った時は、「え?通常の精神科診療ではこんなにじっくり対応することはあまりないのに、もっと長く話を聞いてほしいということ?ちょっと欲張っているのではないかな?精神科診療の現実を知らないのだな」とびっくりしてしまったのですが、純粋にカウンセリングってどんなものなのだろうかと興味を持ったようでした。結局他でカウンセリングを受けるには自費で支払いが発生することをお伝えし、その方はほとんど収入がない方だったので、そのままの治療を継続することで納得されました。

このケースに限らず、特別待遇をしている方は、現実的な視野からずれてしまうことが少なくなかったので特別扱いすることはやめるようにしています。

 

そこで、診察とカウンセリングの違いを説明してみようと思います。(長文苦手な方はこの辺でおやすみなさい)

まず、診察は医療行為です。

診断と治療により構成されます。

まずは診断。

あなたは〜病ですね、と診断する資格。これは医師の特権となっています。

カウンセリングで心理士さんが病名を診断して告知することはできません。

次に治療。

薬を処方する権限、これも医師のみの特権となっています。

精神科ではあまり手術はしませんが、手術も医師の特権です。

転倒して頭を怪我してしまいパックリ傷ができている際は精神科医でも縫合手術はします。

まあクリニックを開業してからはやらなくなりましたが、病棟勤務医必須の技術です。

薬は効能と副作用、相互作用、分量調整など詳しい知識が必要です。間違えば副作用で命を落としたり重大な後遺症をもたらす可能性もあります。毒物にもなりうるものを、有益性が上回るように使用するのです。

医療行為でない形で人に薬を飲ませたら傷害罪です。

手術はどうでしょうか?

メスで大事な血管や神経を切ってしまったら大変です。

医療行為でない人がメスで人を切ったら傷害罪です。

資格のない人にやらせてはいけないという考え方は自然かと思います。

 

もちろん、医師の国家試験というのは医療行為をやっていいという最低レベルの資格ですので

その中での知識や技術の差はありますし、ミスも生じ得ます。

 

いずれにせよ、間違えば人体に大きな危険をもたらす可能性がある治療行為に関してはカウンセラーはやってはいけない、医師のみの特権となります。病気を診断して、薬の処方などを行い、症状を軽減することを目的とするのが診療です。

 

現状のシステムでは、精神科では初診は30分以上が基本となっています。30分以上、60分以上の2段階で診療報酬が定められていますので、通常は30〜60分程度の初診診察が一般的かと思います。症状に応じて生育歴の聴取、症状経過の把握、初期診断、初期治療を手際よくやっても時間に余裕はありません。

再診では薬の効果や副作用、症状経過の把握、見立ての変更や処方の変更を含む治療の変更など5分〜15分程度が一般的です。国公立の病院や研究など採算度外視できれば30分程度かけるところもあります。一般の外来でも緊急時の対応などで30分程度かかってしまうことはありますが、他の患者さんの待ち時間が長くなり外来は大混乱します。医師は時間と格闘しながら、話を切り上げたり、診察を短時間でまとめる能力が求められます。事故がないようにその場で結論を出さねばならないことも多いので、集中力が必要です。その点入院診療の方が重症患者対象ではあるものの、病棟医の方が時間的な猶予ややり直しができることもあります。(脱線すみません)

診察費用は診療報酬の規則に合致していれば保険診療として認められ、料金が全国一律で定められ、さらに自己負担割合が3割、2割、1割、0の方がいます。世界的に見れば、比較的一定レベルの質の医療を安価に受けられるという恵まれた制度になっています。例えば初診で専門家と30分から60分話をして(コンサル)5000円程度で収まるというのは他に類を見ない安さだと言われます。

もちろん、高度な医療を自費で提供されている医療機関もあります。経済的に逼迫した方は治療を受けられませんが、高度な医療技術を発展させていくという意味では大変存在価値があります。対人関係療法の大家の先生の初診は1回10万円くらいだったと記憶しています。

 

では、カウンセリングは何ができるのでしょうか?

私なりの考え方を示したいと思います。(色々な種類のカウンセリングや考え方があると思います)

カウンセリングは現時点では医療行為ではありません。

臨床心理士や公認心理士などの資格はありますが、資格なしでカウンセリングを行なっても良いことにはなっています。

 

カウンセリングは、日常生活の困りごと、対人関係、人生相談、親子関係、夫婦問題、学校生活、職場生活、性格のことなど、診察と比較して「病気の診断や治療」以外の病気のことなども含め比較的幅広い相談をすることができます。生きづらさの軽減などを目標に、何時から何時まで30分、50分などと時間の枠をしっかり定め、お話をしながら整理していきます。薬以外の方法で困り事の解決を目指して行きます。生育歴をたどり、親子関係を振り返って現在の対人関係の問題点の原因を探ったり、考え方の癖に目をむけ、もっと幅広い視点になって問題解決ができないか材料集めをしたり、通常の診察よりも深く細かいお話ができるかもしれません。

色々な手法があります。

一部を除いて基本的に保険診療には該当しませんので、自費でカウンセリング機関が自由に費用を設定できます。現状では1回5000円から10000円程度が一般的ではないかと思います。精神科医がカウンセリングを行なっているところは50分1回1万8000円〜2万円程度というところがあります。これでも海外から見たら決して高価ではありません。

ただ、カウンセラーの技量は精神科医の技量の優劣よりもずっと幅があり、完全な素人さんがやっているところも少なくありません。

規模の大きいクリニックのグループが大量に雇っている未熟なカウンセラーが、30分間ただ相槌を打っているだけということもあります。話を聞いて欲しいだけなら問題ないマッチングですが、真剣に自分を変えたいと思っている人にとっては時間とお金の無駄になります。

奉仕や福祉の精神が強い医療機関では、保険診療である「精神療法」の中で、カウンセリングを行なっているところもありました。私が修行していたクリニックでは、本格的な心理士のカウンセリングを医師の診察とセットにして保険診療の精神療法に組み込んで行なっていました。診察だけなら精神療法分6分間、カウンセリングを合わせて精神療法30分以上、その診療報酬の差額が700円。700円のうち例えば自立支援利用で1割負担なら70円。70円でカウンセリングが受けられるように調整しているのです。ボランティア以外の何物でもありません。

医療経済も厳しくなり、最近はそのようなところはほとんど見かけません。

以上、精神科の診察とカウンセリングの違いをまとまりなく(笑)列記してみました。

 

ただ、精神科の場合、診察の中でも生育歴や対人関係などの問題に触れないわけにはいかない場面もあり、線引きは難しいのは事実です。医師の裁量でどこまで関わってあげるのか異なってきます。

 

ひとつ大事なことを言い忘れました。

初診は患者さんと治療という戦いを一緒に仲間として続けることができるか、きちんと評価し、目的を共有するという大事な場面です。

忙しい医師がじっくり話を聞いて診察するのは大変なことで、

心理士や看護師あるいはPSWが予診としてじっくりお話を伺い、それをまとめて初診医に報告し、その情報をもとに診察を行っているところもすくなくありません。

医師への負担を考えるととてもリーズナブルなシステムではありますが、当院あるいは私が尊敬する医師のクリニックでは医師が初診では直接全部お話を伺います。診断と治療を行う医師が背景にある状況を患者さんから(話し方や感情の込め方も含めて)問診することでより深い診療ができるというメリットがあるからです。

体力の限界が来るまでは私は自分で最初からお話を伺って初診を完成させていこうと思っています。

予約なしですぐに診察してくれる医療機関の中で3分程度問診票を見て、適当にベンゾジアゼピン系の薬づけにするという危険なクリニックが存在します。同業者、他の科の先生方からの精神科批判の原因となっています。

 

一方で、診察時間は長い方がいいのか?という問題も大事な話です。

病気の中には診察を長くしてはダメ!なものもあります。

代表的なものは複雑性PTSD、発達性トラウマ障害です。

長年の虐待や暴力に晒されて心に傷を負い、対人関係や情動制御が困難になっている病気です。

これは初診の段階で生育歴や家族歴を聞かないと正しい診断に辿り着けないかもしれません。

小さい頃から風呂に逆さに沈められた、母親が父親に殴られるのを毎日みていた、父親が包丁を向けて殺してやるとしょっちゅう叫んでいた、いつも殴られていた、母の再婚相手に性的な行為を強要された、お前なんか産まなければよかった、死ねばいい、。。こんな毎日を繰り返し、心は傷だらけです。痛みを感じないように心の傷の記憶に蓋をして生き延びています。

こういった人に対して、漫然と長時間のカウンセリングでずるずると昔の記憶を語らせたり、引きづり出してしまうと、傷の蓋が開いてしまい、当時の恐怖や混乱などが流れるように出てきてしまい、錯乱状態や精神病状態のようになって取り返しがつかなくなったり、どんどん病状が悪化することがあります。

トラウマをきちっと処理する治療を行う以外は、ダラダラ長時間の診察やカウンセリングをしてはいけません。

大体こういう方は生活がめちゃくちゃです。

朝は起きて太陽を浴びること、朝飯は食べること(食べない人はやはりあまり良くないですね)、風呂で温まること、夜はスマホやPCをやめて床につくこと、寝るための酒は飲まないこと、こういった基本的なことを繰り返し指導することを優先します。

それだけでも症状が安定することがあります。

心の蓋が開いてしまった場合はカウンセラーにはどうすることもできません。

トラウマ治療のトレーニングを受けている精神科専門医であれば薬などを使って蓋を閉じることもできます。

 

ですのでカウンセラーにトラウマ治療を任せているクリニックがあった場合、トラウマ治療に精通した医師が監督していなければ危ないことが起きることがあります。蓋が開いたまま混乱し自死してしまうというケースはありえます。

 

どうでしたか?

なんとなく診察とカウンセリングの違いわかりましたか?

自分がカウンセリングを受けたいと思っても適切でない場合があるし、

診察を受けたいと思っても、相談内容が医療よりももっと幅の広い内容のためカウンセリングを勧められることもあります。

話をきいてほしい!という内容が病気なのか相談なのか愚痴なのかなどで医療なのかカウンセリングなのかもかわります。

話をきいてほしくても聞かないほうがいいこともあります。(このへんは患者さんはご理解いただけないことがおおいです)

この辺のミスマッチで当院でお断りすることもあるのです。

 

 

 

長文すぎるので、時間があったらまとめたいとおもいますが、できるかな〜?

 

 

 

 

 

 

 

 

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