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睡眠薬

8月 25, 2025

精神科って。

コレステロールがいくつ、

血圧がいくつ、

血糖値がいくつ。

 

この数値の場合は、この方法で、この薬使って。

 

内科の先生の中にはガイドライン一直線、マニュアル一本で

基準値を目指す医療を行なっている人も少なくない。

 

精神科もマニュアル的な治療で統一しようという方向に向かっている。

 

それも大事だけど、当院では基準値を目指すことを目標とせず、その人それぞれが心地よく生きていくためにどうするかを考えていく。

その結果基準値と大きく違っていたって構わないと思う。

 

発達障害の過剰診断を批判する医師もいるけれど、発達障害の部分特性のために精神疾患を発症している人はとても多い。

誰にでも発達障害の特性を多かれ少なかれ認める。

いくつかその特性が重なったり、突出することで掛け算的に生活に支障をきたすことも少なくない。

だからこそ、私は細かな特性もきちんと評価する。

その結果をフィードバックすることで患者さんが自分自身を理解し、自分の上手な扱い方を習得できるようになっていく。

基準値から外れていても、お薬を使って生活が豊かになるのであれば、それでいいのでは。

薬なしで基準値の健康体でありたいという無理な理想を追求していても、ずっとつらいまま。

 

睡眠薬だってそう。

幼少期の虐待経験で子供の頃から夜眠れなかったという患者に、「生活習慣をちゃんとしろ」「薬なんかに頼るな」

って言い続けるのは拷問だ。脳が常に警戒している過覚醒モードを記憶しているからだ。朝の日光を浴びたって、日中運動したって、夜に入浴したって、ダメな時はダメだ。

 

長いことアルコール習慣がある人も、自力で睡眠を取る力や不安を軽減する自前の力が衰えてしまう。

 

眠れないことで脳がオーバーヒートを生じやすく、うつ病発症や認知症のリスクも上昇する。

睡眠時間に脳の中のゴミが排泄されるのに、睡眠が取れなかったら認知症の原因になるゴミも溜まりやすい。

不眠が続くことで不具合が生じやすいのは当然だ。

 

「睡眠衛生指導さえすれば全ての患者は眠れるようになるはずだ」というのは妄想だ。

「睡眠薬が悪だ」というのも絵空事だ。

 

基準値にならないといけないのではなく、基準値ではない状況を変えることができなくても快適にするにはどうしたらいいのか、

それを毎日追求している。

 

結果的に睡眠薬を継続することでなんとか生活を維持している人もいる。

全員が「薬なしで健やかに」という基準値になるはずだというのは机上の空論もいいところだ。

 

 

 

 

 

 

4月 20, 2025

素敵なレビューをありがとうございます。

良い評価・口コミをいただきありがとうございます。

 

この方も長い初診受け入れ中止期間をお待ちいただいた方ですね。

大変お待たせして申し訳ありませんでした。

と同時に当院の価値を見出していただき心より感謝いたします。

 

全ての初診に2時間以上かけているわけではなく、必要に応じてどこまで掘り下げるか考えながら診察を行なっています。

今回は問題の根っこが幼少時の環境にある症状を認めたため、駆け足かつ長時間お話を伺いました。

怖くて辛いお気持ちに蓋をしてずっと頑張ってこられたご様子が手に取るようにわかりました。

診察でだいぶお疲れになったり、お気持ちが揺れたかと思います。

 

これまでに受診された医療機関では解離症状を伴う不眠に対しての診断や治療がなく、不眠=睡眠薬で対処されていたようでした。

不眠の原因は何か?可能な限り背景を掘り下げていくだけでも色々なことがわかることがあります。

このようなことからも初診の段階でボタンをかけ間違わないようにしっかりと評価することが大切であると常日頃思っております。

 

時間がかかったり簡単ではないと思いますが、誠心誠意の診療を心がけて参ります。

症状に一喜一憂せずじっくりとゴールに向かって進んでいきたいですね。

 

4月 14, 2023

睡眠薬を飲むと認知症になるって本当?

週刊誌で睡眠薬を飲むと認知症になるって聞いたのですが・・・

そういう不安を訴える患者さんも結構います。

真っ向から真面目にお答えしていきます。

 

睡眠薬と言っても色々な種類があるのですが、

認知症になるのでは?という疑いがかけられた睡眠薬は

ベンゾジアゼピン系睡眠薬のことです。

 

ベンゾジアゼピの新規使用と認知症の発症の関係を調べた研究結果を一つ紹介します。

ベンゾジアゼピンを新規に使用を始めた人のグループと

未使用者の人のグループを15年間追跡しました。

その結果認知症の発生率はベンゾジアゼピンを使用した人の方が未使用の人よりも若干多かったという結果が得られました。

ベンゾジアゼピンの新規使用と認知症発症の関連が示されたのです。

(Billioti de Gage S,et al.BMJ.2012;345:e6231)

→しかーし!

この結果を見ると、やっぱベンゾジアゼピンが原因で認知症になるんだ!と思ったそこのあなた。

抜かりがありますぞ。

 

この研究結果は原因と結果を示すものではありません。

単に関連があることを示しています。

 

どういうことか。

 

一方でこんな研究結果もあります。

高齢者の睡眠障害とアルツハイマー病発症や認知機能低下の関連についての研究です。

高齢者になって睡眠の分断がある人は、睡眠の分断がない人よりも、後にアルツハイマー病を発症したり、認知機能が低下する傾向が高くなるという結果です。

(Kim AS,et al.Sleep.2013;36(7):1027-1032)

 

別の研究結果では、ベンゾジアゼピンの高暴露群(ベンゾジアゼピンをたくさん服用している方のグループ)では、その後のアルツハイマー型認知症との関連は乏しい、という結果が得られています。

(Glay SL,et al.BMJ.2016;352:i90)

つまり、最初の研究結果は、ベンゾジアゼピンを使ったことが原因で認知症を発症したということではなく、

睡眠障害の症状が出てきた患者さんは元々認知症を発症するリスクが高くなっている、つまり認知症の前駆症状として睡眠障害を発症している可能性がある。そして、その治療として薬を処方されていた。なので、見かけ上薬を飲んでいる人が認知症を発症しやすいように見えたということです。

 

まあ、不眠が続くと認知症やうつ病のリスクが上がるという話はご存知の方も多いと思います。

眠れなくったって死にはしない!

という乱暴なことをいう医師もいました、しかも精神科医でも。

そういう認識は勉強不足ということになります。

 

週刊誌も研究結果の一部を切り取って人の関心をひいて売り上げを伸ばそうとします。

またサプリ業界では薬に対する恐怖感を煽って、高額なサプリを購入させるようにうまく情報を操作しようとします。

いろんな利害があって情報を操作しようとするものがいますので、正しく情報を読み解くのはとても難しいのです。