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高速道路

2月 6, 2025

広場恐怖って。

当院のパニック症、広場恐怖症専門外来には大勢の患者さんが遠方からもお越しになっています。広場恐怖症なのに電車4本乗り継いでくるって、、、ご無理なさってないですか?笑。

それだけ治したいと本気で当院を目指してお越しになっているのです。

悪魔の財務省の陰謀で診療報酬を減らされているので、保険診療を続けるのであれば、とにかく簡単にさらっと診て、できる限り数を診ていくようにせざるを得ません。

でも、わざわざ遠方から本気で通院してくる患者さんに適当な診察で済ませるわけには・・・

この辺が私の甘いところですが。

 

20年前はパニック症すら知らない精神科医がどの患者にも「不安神経症」という診断名をつけ、デパスを一日3回服用、などという残念な処方をしていることも珍しくありませんでした。

10年前は広場恐怖症を知らない精神科医が不安発作を認める患者すべてにパニック障害という診断名をつけ、これまたソラナックスを一日3回服用という残念な処方をしているのが散見されてました。

いまは広場恐怖を知らない精神科医はさすがにいないと思いますが、

広場恐怖の中身がわかっていない精神科医はまだいます。

一旦デタラメな治療をはじめられてしまうと、修正が難しくなりその後の治療がやりにくいので非常に迷惑だと感じておりました。

「操作的診断は本質的ではない」などとつべこべ言い訳せずに、最低限DSM-4くらいは頭に入れとけや、と若かりし私はイラついていたのでありました、笑。

 

パニックや広場恐怖は治療が簡単だから・・・、と言う精神科医もいると思います。

確かに、治療しやすい疾患です、笑。

わざわざ専門外来と名乗るようなものでもないかもしれません。

本当に適当にやれば、1分くらい話聞いて、薬さっと出すこともできなくもありません。

それがたまたまじっくり診察した結果と同じになる場合すらあります。

しかし、掘れば掘るほど奥が深いのです。

 

広場恐怖になりやすい人はどのような人でしょうか?

詳しい問診で生育歴、発達歴、心理的要因など色々なことがわかります。

当院ではトータルに評価しますので、予後や他の病気の併発などさまざまな見通しを立てるようにしています。

 

診察時間に余裕があるときには広場恐怖の患者さんにいろいろなたとえ話をしたり、病気の名前の由来についてお話することがあります。

私の記憶がただしければ、という前提で読んでほしいのですが、

「広場」ってなんぞやって皆さん思いませんか?

 

TV露出が多い精神科医が以前TVで広場恐怖の間違った解説をしていました。

それくらい広場という日本語と疾患の中身にギャップがあるのです。

 

そのヒントは古代ギリシアにあります。

現在の医学に古代ギリシア医学が多大な影響を及ぼしており、「ヒポクラテスの誓い」を医学生の時に学んだ記憶があります。

広場恐怖はギリシア語を語源とし、agoraphobiaと言います。

アゴラ=広場は古代ギリシアで、城壁に囲まれた人々が集まる公共の場所を指します。

(ここから先は私の記憶によるものであり、ネットでも確認できませんでしたが)

アゴラでは政治が行われていました。

政治はそれそれの利害関係を調整するための戦いでしたから、

民衆が密集し揉みくちゃになって喧々諤々議論していたのです。

身動きが取れず、すぐにその場から離れたいと思っても逃れられないのです。

 

ということで、広場はだだっ広い空間という意味ではないのです。

誤訳とまではいかないまでも、もっと別の日本語を使えばよかったのではないかと思います。

 

満員電車で気分が悪くなってすぐに降りられなかった、

そんな体験から広場恐怖を発症する人もいます。

パニック障害を発症してから、徐々に広場状況が苦手になっていった人もいます。

 

満員電車、電車の急停止、集会、会議、学校説明会、映画館、高速道路、渋滞、トンネル、歯科治療、美容院、美容室、美容院の顔タオル、MRIなど

様々なシチュエーションでそれぞれの「すぐに逃れられない状況」があります。

何がダメで何が大丈夫なのか、人それぞれで、その違いから特性の違いを考察もします。

 

部分的な自閉スペクトラム特性で感覚過敏がある方では、ごみごみ、ざわざわした情報量が多い状況がもともと苦手であったり、過剰な記憶力がわざわいして発症リスクが高いと私は考えています。

ADHD傾向の人はそもそもじっとしているのが苦手で会議などで発症するかもしれません。

あるいは分離不安によって本人が安全と感じる場所(たとえば自宅など)から離れること自体に不安を感じるケースなど単なる行動療法では改善が期待しにくいケースもあります。

そのほか詳しく見ていくといろんなパターンがあって、それによって予後もだいぶ変わります。

 

また広場恐怖を発症する機序には動物的な本能もかかわっています。

診察室で私の例え話を聞いたことがない方はぜひリクエストしてください。

 

当院では、割と重めな症状の広場恐怖の方でも行動療法に持ち込みやすいようなオリジナルの工夫を凝らした治療を行っています。

従来の行動療法、認知行動療法では若干スパルタな要素があり、治療に乗せられないひとがいたり、スパルタすぎるカウンセラーによってより深刻なトラウマを作り出してしまうこともあるからです。

精神医学だけではなく、私が大好きだった循環器内科の研修時に学んだ臨床医学を融合させた治療はぜひ体感していただきたいと考えています。

 

このあたりは当院の強みであると自負しています。

 

 

じじいの自慢話

じじいの説教

じじいの昔話

は嫌われる

 

 

 

上尾みつを

 

 

 

 

 

 

2月 4, 2023

型があっての型破り。

恩師の加藤雄司先生が愛した歌舞伎。

歌舞伎の中村勘三郎さんの言葉で、「型があっての型破り」というものがあります。

何かを習熟する時にまずは型を学んで身に付けてから、新たな方法を生み出していくというものです。


当院では広場恐怖症や社交恐怖に対して薬物治療と行動療法をミックスしたオリジナル治療を展開しています。

丸腰での行動療法よりハードルが低く、成功体験を繰り返しやすく、みるみる行動範囲が広がっていくのが目に見えて楽しいです。その分維持療法をしっかりやらないといけないというデメリットはあります。恐怖症の人にはチャレンジしていくマインドがないと症状はよくなりませんが、スパルタなカウンセリングを受けて悪化している人を結構見ます。スパルタな行動療法が必要なのは強迫症くらいではないでしょうか(私見)。

耳鼻科で対応しきれない不安やうつと関連しためまいや耳鳴りに対しても脳の感覚過敏仮説をたて、オリジナルの薬物療法と従来のめまい体操をミックスしたオリジナル治療も行っています。開院当初より時間があれば患者さんにめまい体操を一緒にやって指導もしまてきました。食いしばりや歯軋りとの関連も見出し、口腔外科と連携をとることもあります。

また、師匠の鈴木仁史先生の心身症、身体表現系の治療をベースにしてアレンジした、言語化が不得手な方の身体化症状に対するオリジナル処方もあリます。

トラウマ、悪夢、社交恐怖などの過剰な交感神経反応に対しては循環器でのトレーニングをベースにしたオリジナル治療を行っています。

精神療法では、必ず生じてくる転移も扱いますし(得意ではありませんが)、EMDRを一部使った混乱時の緊急避難的な対応もします(エキスパートではありません)。ドリルは好きじゃないので、認知療法より行動療法に重点をおいた簡易的な認知行動療法のエッセンスだけ真似て治療に使ったりもします。勤務医時代から患者さんと一緒にマインドフルネスやヨガをやったりしていました。

いろいろなものを取り入れて、自分なりの仮説をたて新しい試みも行っています。

 

しかし、どの病気にも「ガイドライン」というものがあって、標準的な治療方針が決まっています。

ますは型通りに治療する研鑽を積みます。

診断には操作的診断と言って職人でなくても誰でもトレーニングさえ積めば同じように診断名をつけることができるようなシステムも世界標準となっています。症状や経過だけで診断する方法で、原因や治療とそのまま結びつけられないデメリットがあります。

従来診断では精神科医の技量や感性によって診断名がバラバラになってしまうという問題点があったため、その点がクリアになりました。

診断も共通語として使える操作的診断の方法を習得することが必要です。

私の場合は北村先生から直接ご指導を受けるチャンスに恵まれ操作的診断もスムーズに行えるようになりました。

 

まずは基本を押さえないといけません。

基本を抑えて上で、新しい試みをすることになるのです。

型があっての型破りです。

 

しかし、操作的診断なんで馬鹿馬鹿しいと言う医師もいます。

従来診断と言われる、病態生理的な?視点に立った診断名は治療と紐付けしやすいし、本質は何か常に考えを巡らせるということも大変重要ではありますが、発達障害の詳細な知見が明らかになるにつれて、従来のうつ病の細かい分類などもちょっと怪しくなってきました。もう少しすると全く異なるうつ病などの分類ができるようになるのではないかと期待しています。

発達障害もちょっと前まではASDとADHDは合併しないと言われていたのです。両方の特性がある人を見て私は大いに混乱しました。当時の診断基準や教科書にはしっくりこない、納得がいかないことが沢山書いてあったのです。ようやく今になって納得できる答えが見つかってきたのです。とにかくどんどん知識をアップデートしていかないと間違った医療を続けてしまう可能性があるのです。

新しい型をまずは習得してまた次に行く、これが大事だと思います。

病態生理的な診断も日々バージョンアップし、操作的診断もバージョンアップします。

しばらくはこのダブルスタンダードで両方を用いて診断と治療を行っていく必要があると思っています。

この点にこだわって当院は診療を行っています。