漢方の魅力
こんにちは。上尾メンタルクリニックの院長です。
今日は、漢方の魅力についてお伝えしたいと思います。
開院前後の多用のためしばらくサボっているのですが、漢方に関心をもち、定期的に東洋医学の勉強会に参加してまいりました。当院では心療内科で通院中の患者様には漢方治療のご相談もお受けしております。
今日の内容はちょっと難しい内容かもしれません。医療従事者の方にもご覧頂いているようなので、ありきたりの漢方話は今回はやめておくことにしました。
漢方薬はいくつかの生薬を組み合わせたものです。 1つ1つの生薬には個性があります。
漢方はそれらの足し算とバランスで効果を増し、副作用を減らし、時には全く新しい 作用を作り上げてきた長年の知の結晶です。
ここ数年来、認知症の興奮に対する副作用の少ない薬として“抑肝散”という漢方薬が 注目を浴びるようになりました。
抑肝散は“母児同服”という使い方をされることがあります。夜泣きや疳の虫がある乳児の育児ストレスによるイライラや不眠に対して母親に飲ませることがあります。母親は抑肝散を服用したのちに、母乳を与え、母乳を通じて児に抑肝散を服用させます。すると母子ともに安らかな夜を迎えられるというものです。
現在では抑肝散は様々な病態の改善に応用されています。
主要成分は“釣藤鈎”(ちょうとうこう)という生薬です。ジャングルに生息している つる性の植物(アカネ科カギカズラ)の爪(つめ)の部分です。カギカズラは、植物同士の競争が激しいジャングルの中で、強い太陽の光を求めて他の植物にからまって伸びていきます。“鈎”はカギと読み、爪(つめ)を意味します。釣り針(つりばり)状の爪(つめ)を他の植物にひっかけていき、これを足場にして上へ上へと伸びていきます。
(画像はウィキペデイアから拝借しております。ツムラさんから画像提供いただき次第差し替えます)
爪でしっかりとしがみ付いて風に吹かれてもへこたれずに伸びていく“風”に強いしたたかな植物なのです。
また、釣藤鈎は熱帯の物ですから“熱”にも強いのです。この生薬には頭の熱を冷ます作用 があります。
東洋医学では、めまい、ふるえなどは“風”がもたらすものと考えています。
たき火を想像してみてください。炎の上では空気の対流(=風)が生じています。 怒り(イライラ)は感情の高ぶりという炎(肝火上炎)の上で、強い風が吹き荒れて いる状態と解釈されています。釣藤鈎はこの“風”をおさめて、頭の熱をすっきりさ まし、怒りやふるえ、めまいをおさめる作用があるのです。
ストレス性の眼瞼痙攣 (がんけんけいれん=まぶたのピクピク)もこのふるえの一種と考えられます。
この釣藤鈎を含む漢方薬には、抑肝散(よくかんさん)・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)・釣藤散(ちょうとうさん)などがあります。
漢方は、「植物などがしたたかに生きていく力を人間がいただいている」と言えると思います。
生薬にはそれぞれの生き方や形、色、味など際立った傾向があり、それらを理解するこ とが漢方薬を上手に使っていくコツや醍醐味なのではないかと感じています。