医師の気持ち
「患者の気持ち」の反対側──
こんどは、医師として私が感じたことについて書いてみます。
私の診察では、患者さんの生活状況をかなり細かく伺うことがあります。
特に睡眠が不足していると判断したときは、
・朝は何時に起きているのか
・朝食はどうしているか
・日中はどのように過ごしているのか
・夕食・入浴のタイミング
・家事の量や負担
・寝る前に何をしているのか
・布団に入る時刻
などを出発点に、その方の課題に合わせて確認項目を追加していきます。
「家事が忙しくて夜更かししてしまう」という患者さん
先日、うつ病治療のため睡眠時間をしっかり確保してほしい患者さんがいらっしゃいました。
定年前に退職され、年金暮らしのご夫婦。
お子さんはすでに独立し、経済的にも問題のない、穏やかな生活を送っているご婦人です。
ところが話を聞くと、
「家事が忙しくて夜は1~2時になってしまう」
とのこと。
詳しく伺うと、寝る前に長い時間テレビを見ていたり、家事のやり方にも改善できる点が多く見受けられました。
そこでいくつかアドバイスを差し上げたところ──
「先生は奥様が家事をやっていて何もしないでしょう。家事のことなんてわからないですよね」
と、ちょっと刺すような嫌味で返されてしまいました。
実は「家事のプロ」の私ですが…
ところがどっこい。
私は家事のプロと言っても過言ではありません。
クリンネスト、収納アドバイザー などの資格も持っていますし、
正直に言えば、
「あなたとは次元の違うスピードとクオリティで家事できますよ」
くらいの言葉が喉元まで出かかりました……が、もちろん飲み込みました(笑)。
ただ、このやり取りで、彼女のうつ病の背景の一部がはっきり見えました。
柔軟性が乏しく、優先順位づけや臨機応変な調整が苦手という特性
──これが生活を圧迫し、睡眠不足を招き、症状を悪化させていたのです。
それでも「患者の立場なら」と思う
とはいえ、
「鼻から私のことを決めつけて、嫌な言い方をするなあ……」
と、一瞬思ったのも事実です。
でもそれと同時に、こうも感じました。
「もし自分が患者の立場だったら、こういう決めつけをしないように気をつけよう」
医師の側にも心があり、感じることがあります。
しかしそれをどう扱うかは、私たち医療者に課された大切な責任。
そんなことを改めて思い出させてくれた診察でした。



