生活保護を受けている患者さんには、それぞれ複雑な背景があり、そこに至る理由もさまざまです。
他院に勤務していた頃、生活保護から脱却できた方を見かけることはほとんどありませんでした。それほどまでに、生活基盤を立て直すというのは難しい道のりなのだと思います。
しかし今日の診察で、当院に通院していたある患者さんから「仕事も順調に始められてもうすぐ生活保護を抜けられそうです」と報告を受けました。
「ここに来る前は寝たきりだったけれど、ここまで来られたのは先生のおかげです」と感謝の言葉まで頂きました。
もちろん、これは二人三脚の成果であり、何よりご本人が努力を積み重ねてきた結果です。
転換点となる重要なことがあります。
実は今回のケースでも診療を進めるうえで、患者さんが抱える特性に早い段階で気づいています。
しかし、多くの方にとって、自分の弱点に向き合うのは簡単ではありません。ご自身では気づいていなかったり、薄々気づいていても認めたくなかったり、あるいは受け入れるまでに時間がかかったりします。
特性を正確に説明することは、時に患者さんを傷つけてしまう可能性があります。理想的には、ご本人が自然に「自分で気がついた」と感じられるように寄り添っていくことです。
とはいえ、もしそれが自力でできていれば、そもそも受診には至っていないのかもしれません。
そのため私は、できるだけ早い段階(初診であることも少なくありません)で、つまずきの原因となっている特性を、やんわりと、時にははっきりと、丁寧にお伝えするようにしています。
「経過や臨床症状を見ると、ADHDの特性がありそうですね。ただ、自覚症状の検査では点数が低く、ご本人の感覚とは少しギャップがあるようですね。今後の診察で、一緒に特性を掘り下げていきましょうか」
このように、観察と対話を重ねながら進めていきます。
すんなり受け入れてくださる方もいれば、強く反発される方もいます。
どちらであっても、気づきの瞬間には少なからず痛みが伴うものです。
そして、その痛みを越えた先に成長が生まれます。
反発があっても、診療の時間を重ねるなかで、得意な点と苦手な点を一緒に整理していくと、患者さん自身が自覚を育てていきます。
そこから、自分に合う仕事や生活スタイルを見つけられることがあるのです。
当院で生活保護から脱却された方はまだ数人ですが、その瞬間に立ち会えるのは、私にとっても大きな喜びです。
もちろん、働ける可能性のある方もいれば、生育歴や症状の重さから、就労が難しいままの方もいます。
働くことがすべての人にとっての目標ではありません。
その人の背景を理解し、丁寧に見ていくことこそが大切だと考えています。
一方で、生活保護の利用自体を目的化し、精神科をその手段として利用しようとする人も、稀にですが見かけます。
ビジネス的に運営している医療機関では歓迎されるのかもしれませんが、私はそのような姿勢には厳しく向き合います。
医療は一人ひとりの人生に深く関わるものです。
だからこそ、目の前の方を丁寧に、誠実に診ることを大切にしています。



