数字で薬の強さは決まりません
数年に一度くらい、どうしても話がかみ合わない患者さんに出会うことがあります。
薬が嫌いな方は少なくありませんが、とくに発達障害の特性をお持ちの方で薬への思い込みが強い場合、説明がなかなか通じません。
「強い薬は絶対に飲みたくない!」
ここまでは理解できます。しかし問題はその次です。
錠剤に印字されている数字の大小で薬の強さを決めつけてしまい、
いくら説明しても納得してもらえないことがあります。
たとえば……
同じベンゾジアゼピン系のお薬でも、
「グランダキシン50mg」と「ハルシオン0.25mg」では薬の強さはまったく違います。
みなさん、どちらが強いと思われますか?
正解は「ハルシオン(トリアゾラム)」です。
非常に短時間で強い眠気をもたらす睡眠薬で、
依存性や習慣性の問題から、現在では私は新規に処方することはありません。
一方でグランダキシンはとてもマイルドなお薬です。
「効いているのか分からない」という方が多いほど、作用は穏やかです。
それでも、「50mgと0.25mgでは50mgの方が強いに違いない」と信じて疑わない方がいます。
数字が大きいほど強い——。
その感覚はわかるのですが、薬の「mg(ミリグラム)」は重さの単位であって、効果の強さを示す単位ではありません。
象とアリのたとえ話
たとえば、「象1頭とアリ1000匹、どちらが強いですか?」と聞かれたら……
象一頭の力のほうが強いですよね。
数字は1と1000で1000のほうが大きいけれど、1のほうがちからがつよいこともある。
うーん、これは実際はちょっと難しいですね(笑)
アリは小さくても集団になると強い。
戦ったらどっちが強いのか私にはよくわかりません。
数字や単位の話をしても、かえって混乱してしまうことがあります。
「50mg」と書いてあれば「強い薬」と思い込んでしまう。
しかも、こうした誤解を持つのは年配の女性の方に多い印象です。
薬の「ジャンル」や「作用機序」がまったく違えば、
そもそも比較すること自体がナンセンスなのですが——
それを伝えるのは本当に難しいものです。
どう説明したら分かってもらえるでしょうか?
どなたか良いアイデアがあれば、ぜひ教えてください(笑)
こんなたとえ話ならわかりますか?
「エスプレッソとアメリカンコーヒー」──“濃さのちがい”
「どちらもコーヒーですが、エスプレッソお30mlとアメリカン200mlはどちらがつよいですか?」
アメリカンは量が多くても薄ければ強くはありません。エスプレッソは量が少ないですが濃くて強いと言えます。
薬も同じで、“どんな濃さの成分か”がポイントなんです。」
「ウイスキーとビール」──“飲む量と酔う強さは別”
「ウイスキーを30ml飲むより、ビールを500ml飲む方が量は多い。
でも酔うのはウイスキーの方です。つまり、“量が多い=強い”ではないんです。」
種類が違う薬を比較する場合は
「塩と砂糖」──“量は同じでも効き方が違う”
「たとえば、塩を大さじ1杯入れた料理と、砂糖を大さじ1杯入れた料理。
どちらも“大さじ1”ですが、塩のほうはしょっぱい、砂糖は甘いです。
薬もそれと同じで、“どの種類の薬か”によって、効き方が違うのでどちらが強いか弱いかその量を比較しても意味がないのです」



