医療者というのは、他の職業とは少し異なる独特の教育を受けてきました。
たとえば、ヒポクラテスの誓いや、ナイチンゲールの言葉に象徴されるような倫理観や使命感が、その根底にあります。
そのため、これまでは真面目で正義感の強い人が多く、
「医療は利潤追求のために行うものではない」
という価値観が、当然のように共有されていました。
もちろん、高度な専門性を必要とし、国民の生命に直接関わる責任ある仕事ですから、誠実に取り組んでいれば生活に困らない程度の収入は保証されていました。
だからこそ、「利潤よりも正しい医療を行うこと」に価値が置かれていたのです。
それは医療者の間での常識であり、逆に金儲け主義で医療レベルの低い医師は、同業者から強く軽蔑されてきました。とは言っても他の業種から比べれば可愛いものです。介護業種に進出していった医療者は、えげつないビジネスをやっている介護経営者やケアマネと遭遇し驚くばかりなのです。モラルのかけらもない悪徳保険請求業者は少なくないのです。利潤追求のためなら何をしてもよいというスタンスを見ると、軽蔑されていた金儲け主義の医師なんて全然まともだったということになるのです。
(このような内的な倫理観は、他業種ではあまり見られないレベルの潔癖さかもしれません)
実際、これまでの厚生労働省の資料をさかのぼれば分かりますが、医療は長らくサービス業に分類されていませんでした。
広告宣伝も厳しく制限され、「医業」として独立したカテゴリーにあったのです。
つまり、医療はビジネスとは異なる世界だったのです。
ところが近年、財界が「利潤追求こそ正義」というビジネスの価値観を持ち込み、医業に参入してくるようになりました。
医師の中にもビジネスマインドを持つ人が増え、
「患者」は「お客様」になり、
医療機関は「サービス業」として振る舞うようになりました。
ステルスマーケティングや誇張された宣伝、気分を良くさせる接遇を通じて集客し、時には必要のない検査や処方で利益を得る——
そんな異常な収益構造が生まれつつあります。
よく言われるのが、
「接遇もなっていないのに、儲けやがって」
という批判です。
しかし、これは必ずしも正しくありません。
本当に正しい医療を実践しているところは、不要な検査や処方を避けるため、結果的に「儲け」は控えめになります。
また、モラルのない患者との摩擦も少なくありません。
一方で、ビジネスモデルに徹した医療機関は、接遇やマーケティングに特化し、
患者の要求に応える形でモラルの伴わない診断書や処方を行い、
患者満足度はむしろ高く、収益は急増する傾向にあります。
ですから、
「接遇もなっていないのに、儲けている」
という見方は、現実とは少しズレているのです。
当院は、ビジネス的な「接遇」ではなく、家庭的な温かさを大切にしています。
間違いを防ぐためご本人確認は必ず行いますが、多くの患者さんの顔や背景はスタッフも把握しており、安心して過ごしていただけるよう心がけています。
これから、診療報酬がさらに引き下げられ、医療はより過当競争の時代に突入していきます。
その中で、ビジネスに特化した医療法人や株式会社が台頭し、医療の本質よりも「お客様対応」や「表面的な笑顔」が優先されるような世界が広がっていくかもしれません。
しかし、それに屈するわけにはいきません。
右から左に短時間で表面的な診療を行い利潤追求してきた機関と異なり、これまで全力で丁寧に診療してきた積み重ねがあります。
それを「高い付加価値」として評価していただけるかどうか——
それは地域の文化や患者さんの価値観にもよるでしょう。
ですが、私たちはこれからも、
正しい医療を基盤に、ビジネスマン•時にはダークな背景と真っ向から戦っていく覚悟です。
そして、もし今後混合診療や自費診療が一般化していくなら、
そこでこそ当院の真価が問われ、
むしろ強みを発揮できると信じています。