Written by 上尾メンタルクリニック
循環器内科の友人が嘆いていた。
その友人は昼夜を問わず、患者さんの命を守るために、それこそ自分の命を削って毎日働いている。
典型的な職人気質の医師だ。
あるご婦人が心筋梗塞で運ばれてきた。胸に鋭い痛みが走り、灯が消えかけていたが、懸命なカテーテル手術により命を呼び戻した。
心臓の力は衰えたが彼女はリハビリに励み、歩いて家に帰ることができた。
心筋梗塞の再発を防ぐためには、悪玉コレステロールを抑えることが不可欠だ。コレステロールを下げる薬でLDLを200から90まで良下げることができて、退院できた。
しかし、退院1ヶ月後、診察に訪れてきた彼女のLDLは再び200に戻っていた。
首を傾げていると、「薬はやめました」
「友人がネットで調べてくれて、週刊誌にも載っている強すぎる薬だからやめた方がいいって」
と彼女は申し訳なさそうに言った。
服薬の重要性を説明したが、「薬は飲みたくない」と首を縦に降らなかった。
しばらくして、彼女は救急車で運ばれてきた。今度は心臓がさらに弱り、動くたびに息切れがし、外出すら叶わぬ身となった。
「先生の言うことを聞いておけばよかったです」
瞳の奥には深い悲しみが漂っていた。
目の前の医師よりも、見えぬ言葉を信じた代償は大きかった。
友人は医師としての無力感に苛まれた。