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服薬

1月 6, 2026

いつまで薬を飲むんですか?

連休明けのため、昨日・今日と予約枠がはち切れんばかりの患者さんがいらっしゃいました。

タイムマネジメントは、まさに綱渡りです。

トイレに行く時間も惜しみながら、次々と診察を進めます。

 

そんな中、ご本人の希望で「卒業」された方から、再度かかりたいというご連絡がありました。

本来であれば、再初診として新規の初診待ちの順番に並んでいただくのが筋です。

しかし今回は、

・焦燥感が非常に強く、かなり危険な状態であったこと

・年始の混雑で、他院の受診も難しそうだったこと

・何とか時間を捻出できそうだったこと

これらを考慮し、緊急受診として受け入れました。

 

とても感謝されましたが、

正直なところ、ご自身の判断で治療をやめた方の再対応は難しいことが多いです。

基本的に、

「急にまたかかりたい」と言われても、原則として受け入れられません。

(私と相談して卒業された方は、最大限の配慮をします。無断でおやめになった方は難しいことがあります)

この点は、どうかご理解ください。

 

 

人間は、欲の深い動物です。

「もっと、もっと」

要求は、少しずつ大きくなっていきます。

あれほど辛かったはずなのに、

喉元を過ぎれば忘れてしまう。

薬を使い、定期的に見守りながら、

なんとか良い状態を維持できていても、

「薬なんか飲みたくない」

「薬なしで、症状のない完全な健康体でいたい」

そうした希望が出てくるのは、自然なことでもあります。

 

 

たとえば高血圧。

薬を飲んで血圧が下がると、

「いつまで薬を飲むんですか?」

「薬を飲み続けると、病気にされる」

などと言って、薬をやめたがる方が出てきます。

もちろん、一時的な高血圧で原因が取り除かれれば、

薬が不要になることもあります。

心因性の高血圧であれば、精神状態が安定すれば降圧剤がいらなくなる場合もあります。

しかし多くの方は、

これまでの積み重ねで血管が硬くなっており、

「治す」ことができない状態になっていることも少なくありません。

それでも、血圧が高いまま放置すれば、

脳出血、心不全、腎機能障害など、重大な病気を引き起こします。

だからこそ、とにかく血圧を下げておく必要があるのです。

薬を続けるかどうかは、

「何を一番大切にするか」という価値観の問題です。

重大な心血管疾患をできるだけ避けたいなら、薬を飲み続ければいい。

一方で、脳梗塞になろうが脳出血になろうが、

「薬を飲まない自分でいること」が何より大事なら、飲まなければいい。

ただし現実には、

どんなに「いつ死んでもいい」と言っている人でも、

救急の場面では大騒ぎする姿を、私は何度も見てきました。

病気になっても構わない、死んでも構わないというのであれば、

そもそも病院を受診しなければいい。

受診しておきながら

「薬は飲まずに治したい」

というのは、わがままに見えることもあります。

もちろん、本当に薬が不要な状況もあります。

それを判断するのが、プロである医師の役割です。

 

 

精神科でも同じです。

服薬を続けた方がよい場合もあれば、

寛解をある程度維持した後、段階的に減薬し、卒業できる場合もあります。

「治ったのに、意味もなく薬を飲ませ続けて儲けている」

と邪推されることもありますが、

(もちろん世の中には悪い医者もいるでしょう。まあそれをいうなら、世の中のビジネスの多くが客の利益よりも儲けを重視しているのでそれを悪というのかどうか…)

私は、

服薬を維持すべき患者さんは、ある程度わかっています。

そのため、処方を続ける方も少なくありません。

 

一方で、

「やめても大丈夫かどうか、やってみないと分からない」

というケースもあります。

その場合は、患者さんと相談して決めます。

決めきれないときは、一旦保留し、経過を見てから再検討します。

 

 

先日、90歳の女性に

「一生、薬を飲まないといけませんか?」

と聞かれました。

不安が強く、些細なことで毎回大騒ぎになる方です。

少し安定すると、すぐに同じ質問をされます。

無責任に聞こえるかもしれませんが、

私はこう答えました。

「どちらでもいいですよ。」

そして、こう続けました。

「ちなみに、何歳まで生きると想定しておられますか?」

はっとされた様子でした。

「仮にあと10年の寿命だとします。

薬を飲まない自分でいることを一番大切にするのか、

薬を飲みながらでも、なるべく平穏に過ごすことを選ぶのか。

それは、あなたが自由に選べます。」

杖をついて歩く自分が格好悪いと思い、歩くことをやめるのか。

杖をついてでも、自分が見たい景色を見に行くのか。

考えて、選ぶのは本人です。

専門家としての私は、

判断に必要な情報をお伝えするだけです。

だから私は、

「薬を飲め、飲め」とは言いません。

結構ドライです。

患者さんが、本当に理解したうえで

「飲まない」「治療を卒業したい」と選ぶなら、受け入れます。

ただし、

その後に具合が悪くなって

「すぐ診てくれ」と大騒ぎされても、

受け入れられない場合があることは、あらかじめお伝えしています。

とはいえ、人は実際に経験してみないと分からないものです。

どれだけ先を見通して説明しても、

「そんな先のこと、分からないでしょ」

と言われることもあります。

ですから私は、

2回くらいまでは“泳がせて”、実感してもらうこともあります。

 

 

 

昔、先輩がこう言っていました。

「この患者さんは、出産後にまた変調するよ。

だから、その時になったら、またおいでって伝えておくんだ。」

当時は、占い師みたいだなと思いました。

でも今は、ようやく分かってきました。

特性や課題を理解すれば、

どんな場面でつまずきやすいか、

将来どんなことが起こりやすいかは、ある程度見通せます。

先を見据えて、治療を考える。

それが、私の仕事です。

……いや、別に怒っているわけではありませんよ(笑)。

他科の先生でも誤解されていることがあるので、

一度、書いておこうと思っただけです。

治療で落ち着いている人の多くは、

薬を飲んでいるから安定しているのであって、

やめれば元に戻る人も少なくありません。

もちろん、その間に成長し、変わることができれば、

薬が不要になります。

ただし、人の成長は短期間では得られません。

時間をかけて、一緒に成長する。

それが、私の役割だと思っています。

6月 5, 2025

薬はいつまで飲むのですか?

全例にできるわけではありませんが、当院ではなるべく初診の時点で詳しい病状とその原因や背景、さらには見通しまでも立ててお伝えするように全力で診察を行っています。(どうしてもわからないことや最初の見立てが違っていることもありますが)

ある程度の治療計画が見込める場合は、どのくらいのスパンで服薬が必要になるかお伝えすることもありました。

最近では、それもちょっとやりすぎだなぁと思う節がありまして、少し落ちついたころにお話ししようと思うようになりました。

たとえば、うつ病の患者さんはとても悲観的な状態で受診されます。それでもご本人はどこかで「受診して治療すれば風邪のようにすぐに治って薬も不要になる」という理想を思い描いていることも少なくありません。

自分がどういう状態なのか、

改善するのか、

それらがわかるだけでかなり安心できることが多いです。

しかし、その先の維持療法の見込みまで言われてしまうと、理想と違っていることで少し落胆してしまいます。

正直に全てをお話しする誠意も大事ですが、お伝えするタイミングも簡単ではありません。

また、初診時に全てを盛り込むと患者さんも理解仕切れないかも知れません。

 

できれば、患者さんのほうで疑問に思ったタイミングで聞いていただければと思います。

 

「薬はいつまで飲むのですか?」

答えは「ケースバイケース」です。

 

うつ病と言ってもそれぞれの背景や特性、生活、置かれた状況など千差万別です。

一般論で論文のデータを提示して説明することは簡単ですが、でもそれって目の前の患者さんに当てはまるの?っていう話です。

初めてうつ病になった人と、2回以上うつ病を繰り返している人では統計的に再発率には差があり維持療法の期間は違ってきます。

それは一般論でもあり、だいたい目の前の患者さんにお伝えしても間違っていないですが、

初回であっても、長めにした方がいい人と、早めに切り上げても良さそうな人もいて、ある程度見通しは立てられることがあります。

 

発達障害という言葉が知られるようになってから久しくなりましたが、当院では発達障害とまでは言えないまでも非定型発達の部分特性がどのように発症に関連しているのかなど、背景にある要素を詳しくアセスメントしています。

ネックになっている発達特性が、現在の環境でどれだけ支障をきたしているのか、環境が変わる見通しはどうなのか、その辺りまで考えると、維持療法をどれくらい続けるべきか検討する材料になると思っています。

 

また、服薬の期間と障害の程度は必ずしも一致しません。

「睡眠薬が悪」という風潮がありますが、(薬剤の種類は厳選しますが)ケースによっては年単位で使用した方が良い場合があると思います。

とある大企業の取締役としてご活躍されている能力の非常に高い方が何人か通院されています。

どの方も社会適応は問題ないわけです。

ただ、元々の特性として過集中、過覚醒、マルチタスクの特性があって、かなりのタスクをこなされているわけです。

そういう方は色々な生活習慣を工夫しても、なかなか良い睡眠が取れなかったりします。

「寝れなくても死にはしない」という乱暴な言い方をする人もいますが、睡眠はとても大事な役割があります。

心身の調子を整え、記憶を整理し、脳のゴミを排泄する働きがあります。

脳にゴミが溜まると認知症の発症を加速させます。

治療してでも睡眠をとった方が良いと考えます。

役職定年などのタイミングで減薬して、定年後に(対象喪失のうつ症状がなければ)廃薬に持ち込めることも少なくありません。

長期的な計画ですが、そのようなケースもあります。

 

漫然と処方を続けるのではなく、ちゃんとビジョンを持って維持療法を行っているのです。