「週刊誌で睡眠薬を飲むと認知症になるって聞いたのですが・・・」
そういう不安を訴える患者さんも結構います。
真っ向から真面目にお答えしていきます。
睡眠薬と言っても色々な種類があるのですが、
認知症になるのでは?という疑いがかけられた睡眠薬は
ベンゾジアゼピン系睡眠薬のことです。
ベンゾジアゼピの新規使用と認知症の発症の関係を調べた研究結果を一つ紹介します。
ベンゾジアゼピンを新規に使用を始めた人のグループと
未使用者の人のグループを15年間追跡しました。
その結果認知症の発生率はベンゾジアゼピンを使用した人の方が未使用の人よりも若干多かったという結果が得られました。
ベンゾジアゼピンの新規使用と認知症発症の関連が示されたのです。
(Billioti de Gage S,et al.BMJ.2012;345:e6231)
→しかーし!
この結果を見ると、やっぱベンゾジアゼピンが原因で認知症になるんだ!と思ったそこのあなた。
抜かりがありますぞ。
この研究結果は原因と結果を示すものではありません。
単に関連があることを示しています。
どういうことか。
一方でこんな研究結果もあります。
高齢者の睡眠障害とアルツハイマー病発症や認知機能低下の関連についての研究です。
高齢者になって睡眠の分断がある人は、睡眠の分断がない人よりも、後にアルツハイマー病を発症したり、認知機能が低下する傾向が高くなるという結果です。
(Kim AS,et al.Sleep.2013;36(7):1027-1032)
別の研究結果では、ベンゾジアゼピンの高暴露群(ベンゾジアゼピンをたくさん服用している方のグループ)では、その後のアルツハイマー型認知症との関連は乏しい、という結果が得られています。
(Glay SL,et al.BMJ.2016;352:i90)
つまり、最初の研究結果は、ベンゾジアゼピンを使ったことが原因で認知症を発症したということではなく、
睡眠障害の症状が出てきた患者さんは元々認知症を発症するリスクが高くなっている、つまり認知症の前駆症状として睡眠障害を発症している可能性がある。そして、その治療として薬を処方されていた。なので、見かけ上薬を飲んでいる人が認知症を発症しやすいように見えたということです。
まあ、不眠が続くと認知症やうつ病のリスクが上がるという話はご存知の方も多いと思います。
眠れなくったって死にはしない!
という乱暴なことをいう医師もいました、しかも精神科医でも。
そういう認識は勉強不足ということになります。
週刊誌も研究結果の一部を切り取って人の関心をひいて売り上げを伸ばそうとします。
またサプリ業界では薬に対する恐怖感を煽って、高額なサプリを購入させるようにうまく情報を操作しようとします。
いろんな利害があって情報を操作しようとするものがいますので、正しく情報を読み解くのはとても難しいのです。