医療費は公定価格という話をした。

医療費ってどうよ。3
医療費について語る上で大事な話。
保険診療において医療の価格は診療報酬という公定価格が定められている。
私が研修医だったころ外科の先生が嘆いていた。
「白内障の手術と虫垂炎の手術、同じ診療報酬なんだよね。やってられないわ」と
診療科によるアンバランスさもあったり、
その辺は難しい。
私が受診した眼科の再診の診察料は私のクリニックの単価の約4倍だ。
私が受診した内科の再診の診察料は私のクリニックの単価の約2倍だ。
診察の手間暇を考えると私のクリニックは(私にとって)稼ぎがよろしくない、笑。
まあ最先端の眼科の器材への投資など考えれば致し方ないのだろう。
脱線したが、とにかく、診療の値段は国に決められている。世界的にみてお買い得な値段設定となっている。
しかもこの30年間ほとんど変わっていないし、精神科の専門治療費は改定のたびにどんどん引き下げられている。
その一方で消費税導入、消費税増税という拷問。どういうことかというと、保険診療費では消費税を患者さんから徴収できない。(自費の文書などは例外)
クリニックを開業して、例えば内装工事最低限の1500万かけたとする。内装業者には消費税10%の150万円を支払う。
テナント料だって、電気代だって、注射器だって全てに消費税がかかる。
それなのに患者さんからは徴収できないし、
消費税導入、増税により医療機関はその分損をしてきた。
MRIなんて設置しようものなら、億の世界なので消費税は1000万以上だ。
さらにここに来て物価高だ。完全なインフレか微妙ではあるが、大企業の給料は上がっているのでインフレと言ってよいだろう。
食品だの、家だの、車だの、なんでも値上げ値上げ!
それなのに、医療費は公定価格で押さえつけられたまま。
さらに人件費高騰。物価高に追いつかせようと国は人件費を上げろという。
価格転家できないから、経営者がなんとかするしかない。
もしも診療報酬が現状維持であったとしてもかなり厳しくなっている。
その状況で「減らせ」という動きが加速している。
急激に病院の倒産が増えたのはそんな背景だ。
続く
医療費ってどうよ。2
医療費について話すときに、大事なのは三つの要素がある。
1.医療のコスト
2.医療の質
3.医療のアクセス
これらにはバランスがあってお互いに影響しあっている。
例えば
2、医療の質
日本で一番手術が上手い人を受診したいと思ったとする。文字通り、その先生は日本に1人しかいない。
何千人って患者がその先生に殺到したら、予約何年待ちとかになるのは当然のこと。
すぐに医療がうけられるという3、医療へのアクセスは犠牲になる。
例えば埼玉県にその先生がいたとすると、他の県に住んでいる患者さんは通うのが大変に決まっている。質をもとめると3.アクセスは犠牲になる。
また当然ではあるが、2医療の質を求めれば、人件費や医療機器などのコストがかかる。コストを抑えると質は低下する。
診療報酬を抑え込めば、医療機関はとにかく患者数を増やして短時間で診療を済ませて帳尻を合わせることになる。
医療費ってどうよ。1
日本の医療の質
高齢化社会で老人が増えると、当然がん患者やいろいろな病気にかかる人の割合が増えてくる。高齢化社会では医療がどんどん上がっていくのは(良いとは思わないけど)やむを得ない。
現在の日本の保険診療の保険料は、「健康な人が病気になったときに備えたり、健康な人が病気の人を支える」という仕組みで成り立ってきた。
だから(他の国に比べて)お金のない人も医療を受けることができた。
しかも、OECD加盟の先進国の中でトップクラスの質を誇る医療が日本では受けられる。
トップクラスってどうやってわかるのって?
一つの指標だが、「適切な医療を受けられれば命が救えた可能性がある」指数というのがあって、日本は80程度でダントツに低いほう。先進国でも400以上という残念な数値を認めている国もある(これだけ救えるはずの命が救えないってこと)
また日本人の寿命もトップクラスに長い。
GDPに対する医療費の割合は、丁度真ん中、平均値のわずか上あたりだ。
ということで、かなりコスパが良いのだ。
それから実は自己負担も少ないほうなのである。
こんな状況で日本の医療に不満を募らせているような人はもはや世界のどこに行っても暮らせない。
むしろ日本から出ていってくれ、笑。
それは言いすぎた、ごめん。
とは言え、結構日本の医療頑張ってるっていっていいよね。
それからこれを医者が自分で言っちゃうと反感買うってわかってはいるけど、ちょっといいたい。
医者っていうと高級取りのイメージがあると思う。日本の医者が威張っているとか偉そうにしていると思っているかもしれないけれど、世界的には医師はもっとステータスと報酬が得られる職業であり、海外に行くととても敬われたり、特別扱いを受ける事もある。海外の飛行機では、(急患が出た時の対応を期待してだとは思うが)勝手にアップグレードしてくれたりする経験を何度かした。そしてステータスだけでなくアメリカでの医師の報酬はうらやましいとは思う。
アメリカではオバマさんが日本の皆保険制度を見習ってオバマケアを推進しようとした。しかし、日本の医療現場を見学した結果、「これは無理だ、日本のように献身的な医療はアメリカの医師たちには真似することができない」と断念したそうな。
日本の医師たちが責任感が強く、プライベートの時間も犠牲にして働いており、高度な専門性のある職業にもかかわらず時給換算でもアメリカの医師と比べてはるかに待遇がわるかったからだ。これをアメリカの医師たちが受け入れるはずがなかったということである。
とは言え、デフレ社会だった日本では給料が保証されているだけマシだった。我々氷河期世代の中でも安定した職業として人気だった。
しかし、インフレに転じて相対的にも実質的にも待遇が悪化
続く