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1月 31, 2023

オンライン診療。

先程オンライン診療についてセミナーを受講しました。

講師は昔お世話になった先生だったので驚きました。

小児科のトレーニングで私の指導にあたってくださった先生でした。

私と違って無駄のない聡明な先生で、やはり大変ご活躍されているご様子でした。

私が出会ったことのある小児科医は皆様熱心で人柄も素晴らしく優しさが溢れているとしばしば感じてきました。

救急外来での小児科診療は患児をこのまま帰していいのかどうか良く悩みました。小さなこどもは症状を自分で説明できないからです。

困った時に夜中に叩き起こした小児科の先生は嫌な顔一つせず対応してくださったのを良く覚えています。

小さな事ですが今でも小児科のトレーニングで役立っていることの一つは採血技術です。

小さな手の見えない血管を探して点滴や採血をしたことは、その後の自信につながりました。

開業以来採血は看護師に頼らず自分で行ってきましたが、採血不可能だった人は1人だけです。

 

話は脱線しましたが、当院ではオンライン診療の準備をしております。準備ができたら試験的な運用を行なっていきたいと思います。

当院に通院中の方で興味のある方は仰ください。

時代の流れ、国の方針でオンライン診療は普及していくと思われますが、どのような感じになるのか楽しみでもあるし、不安でもあります。今日は初診の患者さんを大真面目に診察した後、採血で患者さんの近くに寄りました。やはり距離感というのは人間同士の交流で意味のあるものだと感じます。患者さんの趣味が私も好きだったもので、診察中の私の反応から患者さんがそれに気がついたようでした。身体的距離が近くなったのをきっかけに患者さんと雑談がはじまりました。とても打ち解けた雰囲気になり一緒に治療していく仲間として信頼関係の第一歩が築けた感じがしました。(精神科医は自分語りを治療上すべきではないので、内面をお話したわけではありませんが)

実際に会って話すので、汗を書いているとか、臭いとか、色々な感覚で患者さんの精神状態を感じ取ることもできます。

また、不便なところをわざわざ来院するという行為そのものが精神科的には治療的な意味を持つことがあります。自分自身が治したい、変わりたいと思って、手間をかけたことは自分自身の身になるのです。

そういうところをカットしていくことでどのようになるのかやってみないとわかりません。メリットもデメリットもあるでしょう。

とりあえずやってみてから判断しますか。

 

1月 31, 2023

βブロッカーの冤罪(βブロッカーと抑うつに因果関係はあるのか?)。

今日はどちらかと言えば、薬剤師さん向けの内容になってしまいます。

実は(実はっていう展開がわかるのは薬剤師さんだけかもしれない)私は日経DIを購読しています。

他の科のお薬事情などをざっと目を通して情報収集しやすいからです。

で、今日届いたDI(ドラッグインフォメーション)にβ遮断薬(ブロッカー)と抑うつの因果関係についての記事がありました。

私がどのようにβブロッカーをとらえているのか、ぜひ知っていただきたい内容でした。

 

βブロッカーとは、狭心症や心不全の治療で使われる交感神経の過剰な興奮を抑える薬です。

分類としては降圧剤に位置しますが、それほど血圧を下げる作用は強くありません。

どちらかといえば、ドキドキ(脈)を抑える方向で心臓などの負荷を取り除いてくれる薬です。

その中でも、脂に溶けやすいタイプの薬であるインデラル(プロプラノロール)は脳にも薬が届きやすいとされます。

私が学生の頃は、βブロッカー特にプロプラノロール(原因)は脳に作用し、抑うつ作用(結果)があるのではないか(因果関係)と教わっていました。

しかし、その後の研究を追っていくと、2011年のVerbeekらの総説論文では「多くの研究において、β遮断薬が抑うつ症状に影響を与えることは確認されていない」、2021年の2件のシステマティックレビュー・メタ分析では、Liらの観察研究で統計的有意な関連性が示されている一方Riemerのランダム化比較試験では関連性は示されていないという事実を認め、β遮断薬と抑うつの関連性が直接的な因果関係ではない可能性を示唆しています。

2022年の英国の大規模プライマリケアデータベースを用いたケースコントロールスタディでは、βブロッカーの短期使用でうつ病リスクが約2倍に増加した一方、長期使用ではうつ病のリスクが低下するという結果を認めました。もし仮に、βブロッカーと抑うつが因果関係にあるのだとしたら、βブロッカーの短期使用よりも長期使用の群において、うつ病との強い関連性が示されなければならないのです。すなわち、β遮断薬と抑うつの因果関係は示されていないのです。

つまり、見かけ上の関連性である可能性が高いということです。

私の臨床経験でもβブロッカーが原因で抑うつ状態になったという因果関係を疑うようなケースは一度も経験したことがありません。

むしろ、抑うつ状態になるほどの交感神経が緊張状態が続いているような人は狭心症や心臓に負担がかかる健康状態になるリスクが高く、結果としてβブロッカーが投与されていることが多いということであると私は考えています。

「抑うつを警戒するあまり、心血管予後の悪化が懸念される患者にβブロッカーの投与を躊躇してはならない」(Verbeekら)のです。

うつ病や不安症の人にβブロッカーが投与される場合に、闇雲にうつ病が悪化する可能性を強調する服薬指導をしてはならないのです。

薬剤師が服薬指導で、副作用を強調し過ぎると、患者さんは心配になって、関連のないちょっとした出来事や思い込みで副作用が出たと信じてしまう「ノセボ効果」をもたらす危険性を意識していただきたいと思います。

β遮断薬服用と抑うつに因果関係がある可能性は極めて低いことを強調すべきと記事を書かれた青山先生も述べていらっしゃいました。

あまり知られていませんが、添付文書で副作用として記載されている症状に対する治療薬として使うこともありますし、記憶やトラウマに関する作用も報告されていてとても興味深いお薬です。

 

ただし、βブロッカーでは添付文書上強調されていないのに、比較的注意しないといけない重要な副作用もあります。

副作用を気にしないタイプの精神科の先生は処方を避けたほうが無難なお薬とも言えます。

当院の処方をそのまま真似て処方される方もおられますが、使い方に工夫や注意が必要ですのでご注意ください。

 

遮断薬=ブロッカーですが、どっちも使うので統一せずに書いてしまいました。直すの面倒なのでご寛容ください。