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9月 27, 2022

一番つらい喪失体験は。

今まで数え切れないほどの方達からお話を伺ってきた。

初診だけでも1人平均1時間。

 

学生さんたちに教える教科書には、

人生の中で最もストレスになる体験は何かという

ランキングとインパクトの表が書かれている。

それはさておいて、私が臨床経験の中で一番つらい喪失体験はこれではないか、と思うものがある。

 

それは、不慮の事故などで愛するこどもを失う親の悲しみだ。

いろんな方の悲しみを受け止めているともらい泣きするのを堪えることはよくあるが、

この悲しみだけはいつも涙を止められない。

私が経験したからというわけではない。

 

開業して間もない頃、もう少し時間的に余裕があった時は、そのような親を私自ら毎回十分に時間をかけてカウンセリングしていた。喪の作業を一緒に行い、1年くらい経つと、「やっとこどもが残してくれた愛を糧に生きて行く、自分なりに折り合いをつけていける気がしてきました」と卒業されていった。

しかし、たった1年では喪失の悲しみは癒えない。私は一番しんどい時に少しだけ寄り添ったにすぎない。

 

今も何人かお子さんを事故や急病で亡くした方が通院しておられる。

毎年毎年、事故の日、お子さんの誕生日、お盆、そのほかお子さんに関連した日が近づくと気持ちが不安定になる。

変な命名だと思うが、これを「記念日反応」という。

 

私はそれぞれの患者さんの「記念日」を記録し、そのタイミングに近づくとより一層注意深く診察を行うようにしている。

「なんでもないです」とおっしゃるが、言葉にはしないものの目を合わせ(心の中で)「しんどい時期ですね」とゆっくり頷くと、患者さんの目が赤くなって涙がこぼれ落ちる。

抑圧しすぎず言語化していった方が良いと思う。

 

こどもを失う親の悲しみほどつらいものはないと思う一方、

幼い子を残して急逝する若い親の無念もつらい。

 

「パパの愛はずっと残っているからね」

残された幼な子にはこう伝えたい。

 

 

*現在当院ではカウンセリングをおこなっておりません。毎回じっくりとお話することをご希望される方は他の機関をおすすめしています。